生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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世界の循環器系-ハッピーフライト-

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photo by hikaru

アイスランドの火山噴火が、大変な事態を引き起こしている。
噴煙が欧州の空を覆いつくし、航空機が空を飛べないのだ。

欧州各国の空港はもちろんのこと、欧州へ向かう世界中の飛行機が全て足止めを食らっていて、成田や関空でも、空港で寝泊りすることを余儀なくされた多数の外国人旅行者が空路再開を待ちわびている。

どんなに情報技術が発達して、瞬時に世界中から必要な情報を得られる時代になっても、外国に暮らす友人と、距離を感じず気軽に会話できる時代になっても、世界を旅する人の数は減らない。
景気の影響で一時的に減ることがあったとしても、大きな流れでは、全世界での海外旅行者数はますます増加する傾向にあるのだ。

情報技術の進歩がもたらす心理的距離の接近は、世界をどんどん一つのものにしている。
同時に、航空技術の発達が移動時間の劇的な短縮を実現している。
そして人は、むしろ旅を厭わなくなった。
それどころか、もっと旅をしたいと思うようになった。



ガンダーラに経典を取りに行く三蔵法師たちは、もう何百日も砂漠を歩かなくていい。
マゼラン一行は命を危険にさらすことなく、わずかな時間で地球が丸いことを証明できる。

人々の、働くこと、学ぶこと、暮らすこと、楽しむことのフィールドは、国境も地形的障害も意識させないレベルに変化してきている。

世界を一個の生命体にたとえるなら、オンラインというのは神経系で、エアラインというのは循環器系と言えるかもしれない。
張り巡らされた神経網は、北極圏で起きた異常事態を瞬時に四肢の末端まで伝えるが、実際に血液が酸素を運ばなければ、四肢は本来の機能を失ってしまう。
そう考えると、目下、火山噴火という天災が塞栓のようになって血流が機能しない世界は、いわば半身不随の状態に陥っていると言える。

航空業界で働くということは、世界の循環器を守るような仕事だ。
欧州系航空会社に勤めている友人は、普段はオフィス勤めだが、今回の事態に休日出勤で顧客対応にあたっている。
もちろん火山が噴火したのは航空会社の責任ではないし、飛行機が飛ばなければ経営への悪影響は避けられないわけだけれど、今まさに困窮した顧客を全力でサポートし、少しでもストレスを軽減するための努力は、彼らの大切な仕事なのだ。

エアラインの体制は、すべてが問題なく進むときのために作られているのではない。
緊急事態を想定し、それに備えて諸々の準備がなされ、働く人は教育されている。
たとえば、出血しても自然と血液が凝固しようとする血小板のような働きを内在していて、被害を最小限に抑えようとするのだ。
パイロットやCAだけを見ると、華やかな世界のように思えるが、実際、そこでは緻密な判断と対応が要求され、緊張が満ちている。

映画「ハッピー・フライト」が面白いのは、まさにそういった面を垣間見られることにある。

CAあるいはパイロットを主役として描いた作品はゴマンとあるが、グランドスタッフ、管制官、整備士、オペレーションコントロールセンター、鳥おどしのおじさんに至るまで、あるフライトにおけるチェックインから機内誘導、離陸、巡航、緊急事態発生、それに対する各専門家たちの全力のチームワークといった、航空旅客に関わる日常、非日常を等身大に描く作品は珍しいし、とても興味深い。

これを見れば、いかに様々な能力や専門知識、経験が結集して空の安全が守られているのかを知ることできるし、便利で快適な旅の背景に、多くの人の努力や工夫が働いているのだと感慨をおぼえることができる。

まだ、この世界にどこでもドアはないから、人々の主たる足が飛行機であることは、当分の間、変わりそうにない。
欧州の空が一刻も早く晴れて、またたくさんの夢や希望が飛び交う日々が戻るのを、今はただ、祈るばかりだ。


ハッピーフライト
(2008年・日)
監督:矢口史靖
出演:田辺誠一、時任三郎、綾瀬はるか他
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by yukotto1 | 2010-04-21 01:15 | 笑える映画