生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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10年ぶり-華氏911-

彼に会うのは、少なく見積もっても10年と半年ぶり。
クラスが変わったときから数えれば、12年と半年。

それだけの時間があれば、人は大きく変わるだろう。
それでも、それだけの時間を経ても、変わらないものは変わらない。



今年何度めかの大型台風がやってきた昨日、恵比寿で高校のクラスメイトに会った。

5月頃だったか、SNSを通してリンク依頼があったのがきっかけで、私たちはお互いの近況を知ることになった。
それから、実際に会ってみようかという流れになり、幾度か約束を試みたものの予定が合わず、やっと今回につながった。

10年ぶり。
いささかの不安はある。
なんといっても、同じクラスだったときでさえ、席が前後に並んでいたときでさえ、私たちはほとんど言葉を交わしたことがなかったのだから。
ずばり言ってしまえば、私たちは、ほとんど見知らぬ者どうし。初対面同様なのだ。

会うのが久方ぶりだというにも関わらず、彼の提案でいきなり映画を観ることになった。
恵比寿でちょうどその日が公開初日だった「モーターサイクル・ダイヤリーズ」という映画。
初めて聞くタイトルだったけれど、キューバの革命指導者チェ・ゲバラの南米縦断旅行について描いた青春ロードムービーらしい。
関東地方では、恵比寿ガーデンシネマでしかやっていないというのだから、せっかくの機会、観てみようじゃないの。
映画に好き嫌いのない私なので、即断でOKの返事をして4時半の回で約束した。
もし人がいっぱいなら、同じ映画館でやっている「華氏911」を観ればいい。

台風は確実に近づいていた。
朝からどしゃぶりの雨だった。
けれど、恵比寿の映画館には、入り口まであふれかえった人。
さすがに公開初日は盛況だ。

結局、4時半の回は既に満席。
しょうがない、「華氏911」にするか、と一足先に会場についた私がチケット売り場に並ぼうとしていると、そこに彼が現れた。
迷いもしない、見過ごしもしない、間違いなく、10年ぶりのクラスメイト。

「お」とばかりに右手を上げる。
「ひさしぶりー」の言葉が出るより前に「4時半の回満席だって。どうする?」と、至って普通の会話。
数日前にも会ってた人みたい。
「そうか~、どうするかね~」と思案10秒、結局、「華氏911」に選択を変更した。

会場が開くまでの間、全くぎこちなさがなかったわけではない。
お互いのブログを時々読んでいるので、断片的な近況だけは知っている。
けれど、それ以上、何も知らない。

最初は、共通の話題として、高校時代の話とか、別の同級生の現在について話をしようとした。
ところが、想像以上に私たちに共通点はなく、高校の頃の話はほとんど共有できない。
そもそも、高校時代のことを、お互いあまり憶えていなかった。
不思議なほどに、記憶が欠落している。
私たちが通っていたのは、記憶を封印したくなるような、まあ、そういうちょっと屈折した高校だったのだ。

ほどなく会場が開き、私たちはマイケル・ムーア監督、カンヌでスタンディング・オベーションにパルム・ドールまで獲得した「華氏911」を観た。
私の感想は「ボウリング・フォー・コロンバイン」と同じ構成で驚きが薄い、ということ。
もちろん、ブッシュがアホだとか、イラクで落とされた多くの命の無念さだとか、そういったことは同意する。
怒りや悲しみも感じないではない。
でも、どこか、これにスタンディング・オベーションをするような、短絡的な人間にはなりたくないな、というブレーキがかかる。
あとは、アメリカ政治や経済をよく知らない人間には、内容を理解するだけで、結構エネルギーがかかってしまうのは否めない。

実際、終わったあと、私たちが交わした感想は「なんか疲れたね」というものだった。
10年ぶりに会った人と話題にするには、少し政治色も強すぎた。

高校時代の話もバツ、さっき観た映画もバツ。
では、会話は盛り上がらなかったか?

それが全くそうではなかった。
私たちの会話は大いに盛り上がった。

食事をしながら、食べ物の好き嫌いや、お互いの転職や、最近の恋愛、昔の恋愛、体重の変動からテクノロジーの進歩に至るまで、話題は全く尽きなかった。
それは、初対面の者どうしのそれとは違う、そしてまた10年来の友人とのそれとも違う、ちょっと不思議なバランス感だったと思う。

初めて聞くことばかりなのに、「ああ、なるほどそうだったかもね」という納得感があるのが妙だ。
彼が言っていたように、確かにちょっとした安心感もある。
初対面の人には言うのを躊躇するようなことも、わりとすんなり話せるし、相手に対する許容の幅も広がる。

実に不思議なコミュニケーションだった。

以前、あるコラムでおすぎが書いていたところでは、デートにはあまり面白い映画を観てはいけないのだそうだ。
デートはあくまで、その後の会話がメインでなければならず、映画があまりに面白いと、その日のメインを映画に奪われて、会話の思い出が残らないからだそうな。

確かに、昨日のメインは、なにをおいても10年ぶりの再会にあり、映画はその付け足しとしてはちょうどいいあんばいだったに違いない。


華氏 911 FAHRENHEIT 911(2004年・米)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア、ジョージ・W・ブッシュ他
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by yukotto1 | 2004-10-10 14:26 | 考えてしまう映画