生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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タクシーの物語-ナイト・オン・ザ・プラネット-


仕事柄、よくタクシーに乗る。
かなりお酒が入った日や、くたくたに疲れた夜もある。
窓の外に流れる景色を楽しむ余裕があるときも、移動中ずっと携帯で話し続けるときも、行き過ぎやしないかと心配しながらも、抗しがたく眠りに誘われてしまうときもある。




年に100回以上は乗っていると思うけど、同じ運転手さんに会うことは滅多にない。
同じ人だとお互いに分かるもので、道順も「こっちですよね」と話が早い。

とはいえ、多くの場合で一期一会のタクシードライバー。
彼らは、あちらからこちらへ客を運び、気分が乗れば、後方席と会話も交わすだろう。
眠くないときには、私は結構、彼らと話をするのが好きだ。
それは軽い世間話であったり、身の上話であったり、他の客の話であったり、商売の話であったりして、他愛なくともそれなりに示唆があり楽しくもある。

ある夜、家のすぐ近くの交差点まで帰ってきて、信号待ちをしていたとき、私は深い吐息をついた。
そうしないでいられない、というほどの、意図的に深い吸気と呼気だった。

「休日出勤ですか。家に着くとほっとするでしょう?」

道中それまでずっと黙っていた運転手さんが、そう言った。
平日は寝不足が続き、日曜が丸々仕事でつぶれた夜だった。
正直くたくたで、身体の中の空気を外のものと入れ替えたくてたまらなかった。

「はい。そうですね。ほっとします」

「そうでしょう」

何気ない、ちょっとした言葉だったけど、なんだか少し、軽くなった。

毎晩、こんなふうに、何人もの疲れた男や女を乗せるのだろう。
みんなこんなふうに、家に近づくと息を吐き、緊張がゆるゆると解けるのだろう。
そしてドライバーは、車を降りてゆく背中を、数え切れないほど見るのだろう。

東京のタクシードライバーなんていうのは地方出身者が多く、道も知らないというのが珍しくない。
訛りのある人や、自嘲気味に生活を愚痴る人、人情深い人、不器用な感じの人も多い。
どこかヤクザな人も多い。

なんだか私は彼らとの触れ合いが好きなのだ。
彼らは私を知らず、私も彼らを知らない。
タクシー乗場の列で偶然にその車に乗り、オフィスから自宅まで20分きりの付き合い。
その中で交わされる、その中だけだからこそのコミュニケーション。
自己紹介なんてしないけど、驚くような身の上暴露が飛び出したりすることもある。

おそらく普段の生活の上で、こういうかたち以外では決して知り合うことがなさそうな人なのが、また不思議な感じなのだ。

映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」は、ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキ、それぞれの夜を走るタクシードライバーと客の話。

飄々とした若い女ドライバーが仕事漬けのキャリアウーマンを乗せることもあれば、ドイツからアメリカへ来たばかりの運転手が英語さっぱりで困り果てる客もいる。
泣ける話、笑える話、ゾッとする話、小気味いい話。

地球上のどこにでも、物語がある。

夜が更けて、朝が訪れるまで、そしてその先にも、東京の何千のタクシーに、世界中の何千万のタクシーに、様々な物語があるだろう。


ナイト・オン・ザ・プラネット Night on earth(2001年・米/日)
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ジャンカルロ・エスポジト他
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by yukotto1 | 2005-01-14 01:15 | アートな映画