生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

Bitter Valentin-ヴァイブレータ-


名古屋からの帰り途上、品川駅で待ち合わせた。
映画でも観ようかって言っていたのに、ちょうど上映時間のタイミングが悪く、しかたないね、と諦めた。
かわりにまったりお茶にする。

名古屋で立ち寄ったカフェのショーケースに、「ショコラータ」という名の小さなスティック状のチョコレートケーキを見つけておみやげに買ったので、それを分けて食べる。
あした、バレンタインデー。



なんとなく思い出したのは、高校2年の2月14日。
二つ年下の弟の高校受験の日だったというのが、記憶の端のほうにある。
私の高校も受験日で休みだったので、自宅でぼんやり過ごしていると、中学で同じクラスだったM君から電話があった。

すごく、ひさしぶり。
というより、M君が電話してきたのは、初めてのこと。

「なぁに?」

M君が言うには、これまた同じクラスだったY君が高校を辞めて地元を離れることになったので、お別れに会ってやってくれないかということだった。
Y君のことなのに、なんでM君が電話してくるのか、というのはあるけど、「まあいいよ」ということで、その日の午後、指定された場所まででかけた。

コンビニの駐車場。

Y君はスポーツが得意で、確かどこかの体育学科に進学したはずだった。
中3で同じクラスで、特別に仲が良いというほどではないけど、まあまあ親しかった。
見た目には少し、いわゆるヤンキーっぽい子でもあった。
誓っても私はヤンキーじゃなかったけど、そういう類の子たちとも、私は割合うまくやるタイプだった。

卒業以来はじめて会うY君に、「やあ」という感じで右手を挙げてみる。
彼の方は、あまり力のない笑顔を見せた。

「学校辞めるんやってね」
「・・・うん」

聞いてみると、辞める理由というのは、ちょっと勢いにまかせたような感じだった。
普段から衝突が多かった先生と取っ組み合いのようになり、「もうこんな学校辞めたるわ!」と口走って、そのまま。

もともと彼の両親は離婚していて母親と二人暮しだったので、高校を辞めるのをきっかけに様々なしがらみを捨て、大阪へ出ることになったのだと言う。

「高校なんか、行ってもしゃあないし。俺、アホやし」
「でも、柔道得意やんか。柔道、強かったんやろ?」

彼はスポーツ推薦で高校に入学していたのだ。
体つきは小柄な方だったけれど、敏捷でバネのあるタイプだった。

「インターハイ、行ったで」

肩を落としていたY君が、ほんの少し得意げに言った。

「すごいやん。それで大学かって推薦で行けたのに」
「え?」
「行けたよ。柔道強かったら、大学行けたよ」
「そんなん、考えたこともなかった」
「アホやな」
「ほんまや」
「学校辞める前に、うちに会えばよかったのに」
「ほんまや。そないしたらよかった」
「アホやな」
「ほんま、俺、アホや」

私たちは、元には戻らないこぼれたミルクについて笑った。
決して重い雰囲気じゃなく、浅はかな若さや、そんなちょっとしたことで分岐していく人生を笑う感じだった。
大学に行くというオプションは確かにあったけど、だからといってその先にあるものが、何かを保証しているわけでもなく、何を否定すべきで肯定すべきかなど、誰にも分からなかったからだ。

「ほら、チョコあげるわ」

そこに来るまでの道で買った。
Y君は驚いて、みるみるうちに嬉しそうな顔を作った。

「こんなん、全然考えてなかった。めっちゃ嬉しい」

はしゃぐような、弾むような、ちょっと高くかすれる声だった。

「義理やからな」
「分かってる。分かってる。でも、めっちゃ嬉しい」

Y君の顔は笑顔というより、くしゃくしゃとした複雑なものになっていた。

「大阪行く前に会っときたかってん。もう、会えんくなると思って」
「うん」
「知ってると思うけど、ずっと好きやったから」
「でも、高校で彼女できたやろ?」
「できたけど・・・違うねん。それはな、違うねん」

そういう男の子の気持ちも、分からないではない。

「元気でな」
「うん。ありがとう」

私たちは、そのコンビニの駐車場で別れた。

映画「ヴァイブレータ」で、孤独な男女が出会い、別れたのも、バレンタインデーのコンビニの駐車場だった。
屈折した二人は、エンジンがかかったままの大型トラックの中、名前も聞かぬまま、半分の嘘と半分の真実を持ち寄る。

時として、人間は問答無用に他者の温もりを求めることがある。
かといって、その他者が、誰でも良いわけではない。
そして同時に、それで誰かの名が挙がるくらいなら、まだその人は幸福だと言える。

女は「人に触れたい、でも怖い」とつぶやく。
だから、「感情ではなく本能」の優しさだけが、彼女の孤独を救ってくれる。

新潟まで行き、帰ってくるまでの二人の旅路。
幹線道路を流れるテールランプの軌跡は、幻のように美しい。
その軌跡をたどりながら、夜が明けて、また次の夜が来るまでの物語。

コンビニの駐車場、彼女は振り返らない。
彼女は、「少しいいもの」になった。
その感覚は、彼女の明日さえも「少しいいもの」に変えるだろう。

Y君には、12年前のあの日以来、会っていないし、消息も知らない。
それでもあの日、未来はいかような姿だとしても、厳然として横たわっていた。

彼の明日は、ほんの少しでも「いいもの」に変わっただろうか。



ヴァイブレータ(2003年・日)
監督:廣木隆一
出演:寺島しのぶ 、大森南朋 、田口トモロヲ他
[PR]
by yukotto1 | 2005-02-13 23:13 | 切ない映画