生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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ユタさんとジャック-A.I.-


親友がブログを始めた。
昨年生まれた、かわいい赤ちゃんの写真が載っている。
親友は私と同い年だけど、どうやら中身はすっかり母親になったようで、我が子がかわいくてたまらないらしい。

大学1年のとき、ニュージーランドで一ヵ月半ほどホームステイしたことがある。
ライオンズクラブのstudent exchangeプログラムを利用したもので、期間の前半を首都Wellingtonから車で1時間ほどの小さな町Fielding、後半をNZ最大の都市Aucklandで過ごした。



Aucklandでお世話になったホストファミリーは、ドイツ系の一家だった。
ホストマザーのユタさんは50代の専業主婦、ホストファーザーのラインホルトさんは大工、それから大学生の息子ヨハンとおばあちゃん(ユタさんの実母)がいた。
それから、2匹の犬、ヘンゼルという名のグレイハウンド、グレーテルという名のテリア。
近所にはマオリ族の男性と結婚した長女レイチェルも住んでいた。
(実は二女にハイジという高校生もいたのだけれど、彼女は私と入れ替わりにドイツにstudent exchangeに出ていて不在だった)

私は本当に温かく迎えてもらった。
特にユタさんと過ごしたオークランドの日々は、今振り返っても、格別に輝いている。

ある日、街の中心地にあるショッピングセンターへ買い物にでかけたとき、吹き抜けの広場のような場所で、モップを実演販売する人がいた。
私とユタさんは、人だかりにまぎれつつ、販売員の見事な話術とモップを操る動きを眺めた。

どこにでもこういうのってあるんだなあ・・・、でもただのモップじゃん・・・と思ったところに大真面目な顔つきで見ていたユタさんがおもむろに手を挙げて、「それ買うわ」と宣言した。
「え?ほんとに買うの?」
私が驚くと、ユタさんは相変わらず大真面目で、そのモップの素晴らしさについて、販売員の言葉をきれいに復唱するように語った。
・・・いや、それはさっき聞いてたから・・・

満足げにモップを肩にかつぐように持つユタさんを見て、私は思わず笑ってしまった。
「まるで猪八戒みたい」と言うと「なんなのそれ?」と訊くので、「Chinese Pig Monster」と説明すると、ユタさんはますます満足げに笑みを浮かべ、何度も「Chinese Pig Monster」と繰り返していた。
家に帰ってから、ラインホルトさんやヨハンにも、自分は「中国のブタの怪物」に似ていると報告したくらいだ。
彼女はとてもひょうきんな人だった。

また、とても優しい人でもあった。
私はニュージーランドで、ある本を探していた。
日本では出版されていない「メアリーポピンズ」シリーズの原書だ。
これが意外と見つからなかった。

街に出るたび本屋に立ち寄る私を見て、ユタさんは何か探しているのかと訊いてくれ、それが「メアリーポピンズ」であると分かると、色々な人から情報を集め、路地裏にひっそりと構える児童書専門の本屋へ私を連れて行ってくれた。
「yukottoが日本に帰るまでに見つからなかったら、必ず探して送ってあげるわ。きっとクリスマスまでには着くわよ」
ユタさんはそう言ってくれたけど、その本屋で私は遂に目的の本を見つけた。
そこで私は「メアリーポピンズ」シリーズを全5冊、手に入れることができたのだ。

私はユタさんが大好きだった。

ライオンズクラブのstudent exchange programでは、現地のライオンズクラブ会員の家庭にホームステイをする。
そのときはAucklandの何番目かの地区のクラブにお世話になったわけだけれど、同じクラブでは私の他にも日本人を何人か受け入れていて、時々、他の日本人の子のホストファミリーが留守にするときなど、ユタさんがその子たちの面倒をみることもあった。
つまり、私と他の日本人の子が行動を一緒にする日が、何度かあったということだ。

そんな日本人の男の子の一人が、あるとき、ささやくように言った。
「あのおばさん、ちょっと変じゃない?」
「え?どこが?すごくいい人じゃない?」
「変だってば。あの人、いっつも人形を連れ歩いてるぜ」
「え?ほんと?」
全然気がつかなかった。
「それに、その人形に話しかけてた。ジャックとか呼んでるし」

そう言われてよくよく観察してみると、確かにユタさんは外出するときにはいつも、小脇に挟めるくらいの人形を持って出ていた。
車に乗るときはリアシートに横たわらせ、車から離れるときは、何かその人形に話しかけていた。
人形を持ったまま外を歩くこともあったし、レストランで隣の席にそれを座らせることさえあった。

それは確かに、不審とも映る行動だった。
ユタさんは、本当に少しおかしな人なんだろうか。

ずっと気になって過ごしていたが、日本にまもなく帰るという日、私は思い切って尋ねてみることにした。
「いつも人形を連れてるのね?」
「そうよ。彼の名前はジャックって言うの」

それ以上、どんな言葉を継げばいいのか言いよどむ私を見て、ユタさんは続けた。
「ジャックは私の息子なのよ」

ユタさんの話はこうだった。

彼女は、かつて流産をした。
ユタさんには、レイチェル、ヨハン、ハイジの他に、もう一人、生まれてくるはずの息子がいた。
でも、その子は、この世に生を受けることがなかった。

ユタさんは悲しみに暮れ、その子のことを決して忘れないために男の子の人形を作り、ジャックと名前をつけた。
いつでも、どこへ行くときも、ユタさんはジャックと一緒にいる。
顔を見ることさえできなかったママと、小さな男の子ジャック。

「ジャックも私の子どもなの。ジャックが寂しくないように。私が寂しくないように」

3人の子どもがいて、孫娘もいるユタさんだけれど、ジャックもまた彼女の大切な子どもなのだ。
ユタさんは、流産をした女性の立ち直りを助けるセラピーにも、経験者としてボランティアで参加しているのだと言う。

キューブリックが温めていた構想を、彼の死後、スピルバーグが映像化した「A.I.」は、母を「愛し続ける」ために生まれた少年型ロボットの、限りなく切ない物語。
未来の世界。
不治の病に冒されて冷凍保存された息子を持つ夫婦が、悲しみを癒すためA.I.デイビッドを迎え入れる。
デイビッドは、呪文のようなコードのインプットで、どこまでも一途な愛を宿すロボット。
見た目は本物の少年と区別がつかないほどリアルだ。

しかし夫婦の実の息子の病が回復し、デイビッドはあっけなくお払い箱になる。
ママに捨てられたのだ。
残酷にも、永遠に愛する心を残したまま。

そんなデイビッドの、ママを探す長い長い旅が始まる。

この映画を観て、ユタさんのことを思い出した。

生まれてさえいなくても、存在する愛がある。
ジャックはきっと幸福だろう。
それは、永遠のうちに。

ユタさんから私は、数え切れないものを学んだ。


A.I.(2001年・米)
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:ヘイリー・ジョエル・オズメント、ジュード・ロウ、フランシス・オーコナー他
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by yukotto1 | 2005-03-03 01:39 | 切ない映画