生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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次の季節-となりのトトロ-

日曜日、横浜三渓園に出かけた。
本来なら桜が一番綺麗なときに行くものだろうけれど、ちょうど一週間遅れ。
というのも、昨年、桜の時期に行こうとして駐車場の入口の列に負け、わざわざ行ったにも関わらず断念したことがあったから。
(ゴッホもそうだったけど基本的に根気がない)

桜を見にいったわけじゃなく、ただ単純にぼんやりしてみるためのおでかけ。
今回は駐車場も待たずに入れた。



それでも、気温が23度もあるいい天気だったので、野原には親子連れが多く、キャッチボールとかバトミントンとか、フリスビーとか、追いかけっことか。

世の中にはこんなに子どもがいたのか、とちょっと驚く。
少子化が疑わしくなるほどの幼児に乳児。
普段、あまり縁がないので。

なんか、赤ちゃんって、関取みたい。
身長の割に(どっちかっていうと「体長」に近い感覚)信じられないくらい太ってるし、首がないし、ほっぺたぷにぷにだし。
ベビーカーにすれ違うたび、私が「ごっつぁんです」と言っていると、連れが呆れたように笑った。

三渓園の池には鯉がいっぱいいて、人々が売店で買った「コイのエサ」を投げるとたむろって波をざわつかせる。
水面に濁った茶緑の背びれを出して、円い口を開けては空気を食べる。
私はちょっと気持ち悪いと思ったけど、エサを投げているおばあさんの表情はかなり嬉しそうだった。

連れが好きだと言うので、園内にある茅葺き屋根の古いお屋敷へ足を向ける。
昔話の世界のような、合掌造りの民家だ。

乾燥した茅がぎゅっと凝縮された屋根の厚みが、とても温かそうに見える。
外観のバランスは慎ましく、また存在感がある。

こういう家に住んだことはないけれど、なぜか懐かしい気持ちがする。

映画「となりのトトロ」で、サツキが電話を借りるため立ち寄った近所のおばあちゃんの家は、ちょうどこんな感じだった。
電話交換士につなぐ、黒い壁掛け電話。
耳に糸電話の紙コップみたいに受話器を当てて、左手にはマイクを持ってしゃべる。

さすがにそこまで古い時代のことを私は知らないけれど、子供の頃、うちに黒電話はあった。
指でダイヤルをまわし、受話器を置くとチンと音がする機械式の電話機で、呼び出し音はジリンジリンとうるさかった。

板張りの床、低い梁、江戸間の畳、褪せた襖戸。

裏庭に面した8畳間で、障子を開け放した桟に腰を下ろし背をもたせかけ、文庫を読んでいるおばさんがいた。
いかにも作業着を着ていて、脇にピンク色のビニール手袋と雑巾のかかったバケツが置いてある。
どう見ても掃除のおばさんだと思うのだけれど、客が通ろうがお構いなしに、のん気に日なたの休憩を楽しんでいる。
まるで私たちは、おばさんちに遊びに来た親戚の子にでもなったみたいだ。

でも、おばさんの読んでいる本は、きっと素敵な話なんだろう。
彼女の表情はやわらかかった。

その家には、果たして屋根裏のような二階があった。
手をつきながら上らなくてはいけないような、急な急な階段(梯子と言うべき?)もある。
その先には、もちろん、「まっくろくろすけ」が住んでいる。

「二階は大事なものがあるから、上がっちゃいけないって言われてたよ」
一緒に来ていた人のおばあさんのうちは、こんな感じの造りだったらしい。
「でも、ついに上がってみたら、大して大事なものなんかなかった」

大人って、いつも特権みたいに自分たちだけの秘密を作ろうとする。
子どもには何だってとりあえず、隠しとけばいいと思っているんだから。

「囲炉裏は東日本だけの文化で、西日本にはないんだよ」
なんていう話を聞いて感心したりしながらお屋敷を出て、名残惜しげな八重桜に視線を送った。

あの桜も散り、これから、やがて夏が巡ってくるだろう。
田植えの季節になり、猫バスの風が走るようになる。

故郷の家の二階から、青々とした早苗が見渡せる季節。
厳しい日差しが訪れる前の、雨滴が空を濁らせる前の、束の間のさわやかな季節。

全てが懐かしく、愛おしい、初夏の香り。



となりのトトロ(1988年・日)
監督:宮崎駿
声の出演:日高のり子、坂本千夏、糸井重里 他
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by yukotto1 | 2005-04-20 01:02 | ハッピーになる映画