生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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社会適応性とその先の自分-es(エス)-


どうやらコンサルタントには社会心理学を学んだ人が多いようだ。(私は法学部卒)
私の知る限り、少なくとも4人の社会心理学科卒業者がコンサルタントをやっている(あるいは最近までやっていた)。
実際、彼らはこの手の職業に適性があるようで、とても優秀だし楽しんでやっているようにも見える。



ちょうど今、私が関わっているプロジェクトでも、メンバーの一人に社会心理学修士がいる。
大学院まで行って学んでいるので、結構ちゃんと勉強したに違いなく(特に文系の院卒はきちんと勉強した人が多い)、彼が数多くの実験を行う中で培った分析や統計学の知見は、大いにプロジェクトの助けになっている。

心理学というと多くの人は、フロイトの夢分析だとか、カウンセリングだとか、その手のキーワードを思い描くだろう。
こういう心理分析の類は、心理学の中でもほんの一部で、どちらかというと精神医学に近く、社会心理学というのはこれらとは全く無縁。
そこでは、人間が集団としてどのような行動をとるかということが主題なのだと言う。
「同じ環境下に置かれると必ず人間はこのようになる」ということを研究するのだとか。

社会心理学修士のS君は、「どんなことをやっても人それぞれ、結局個性の問題って言っちゃうのは面白くないじゃないですか。いくら分析したところで意味がない。どんな個性を持った人だろうが、人間共通の何かがあるという前提に立っているのが社会心理なんです」と言う。
なるほど、ちょっと面白そう。

その社会心理学実験をテーマにしたのが、「es(エス)」という名のドイツ映画。
Mr.Childrenの歌にも「es」というタイトルのものがあったけれど、それは「欲望」「衝動」などを指す心理学用語。
ドイツ語では、es=it(それ)なのが、個人的には面白いと思っている。
直接的な表現を避けるほどの、言い及ばない「それ」という意味で。

原題は「es」ではない。
「Das Experiment」とは、ドイツ語で実験の意。

ある大学の社会心理学教授が実験のため被験者を集める。
内容は、被験者を無作為に看守役と囚人役に分け、大学内に設けられた模擬刑務所で14日間過ごさせる、というもの。
主人公は、囚人役の一人として参加した、実の姿はジャーナリストである男性。

参加者は皆、良識的な生活を送る普通の人々だ。
ホテルマンや航空会社の社員や、部下を持つ者、雑貨店を営む者。
猟奇性も凶暴性も特段持ち合わせない。

しかし、「刑務所」というルールの中で看守が囚人を監視し、彼らの動きを統制する役割を与えられただけで、看守は看守らしく、囚人は囚人らしくなっていく。
看守役は従わない者を力づくでも従わせようとし、あたかも自らには正当な権力があるかのように威圧する。
囚人役はやがて卑屈になって抵抗をやめ、恐怖心をもって看守に従うようになる。

そしてそれだけでも物事は終わらず、ますますエスカレートして惨劇を生んでいくのだった。

これは1970年代にスタンフォード大で実際に起こった心理学実験をモチーフにした作品で、本当に「同じ環境下に置かれると必ず人間はこのようになる」ことを半ば証明していると思うとぞっとする。
私も、あなたも、そうなってしまうんだろうか。

自分がこの中のどの登場人物になるのだろうかと考えを巡らせてしまう。

「どんな個性を持った人だろうが、人間共通の何かがあるという前提に立っているのが社会心理なんです」。

それは、考えると少し怖い。

7月から、新しいポジションに昇進した。
それは嬉しいこと。
でも、新しい役割に新しい責任を負うことにもなり、緊張するし不安にもなる。

いつも思うのだけれど、リーダーは生まれながらにしてリーダーだったのか、マネジメントの適性は最初からある人とない人がいるのか。
いともたやすくそれを実現していく人、大昔からずっとそんなふうに見事な振る舞いができていたかのような人、そんな目上の方々を見ると、尊敬すると同時にとても心配になる。
いずれ時間の流れの中で自分がその立場に立たざるを得なくなったとき、私は本当にそうできるのだろうか、と。
少なくとも今の私には、まったく自信がない。
将来的にも、本当にできるか自信がない。

みんな最初は不安なのだろうか。
最初はみんなうまくやれなくて、手探りと失敗の中で成長をしていくのだろうか。
仮にそうだとしても、成長の余地のある人とない人がいるんじゃないか。
あるいは、その立場に立つことで幸せな人と、そうならない方が幸せな人とがいるんじゃないか。

そういう疑問の前で、うろうろとしてしまう、私はなにげに微妙なお年頃。

けれど、実際には時間は待っていてくれない。

でも少なからず、人は「同じ環境下に置かれると必ず」こうなる、こう感じるという類のものはある。
マネジメントという立場に置かれれば、それに順応しようとするだろうし、よりマネジメントらしく振舞おうとするだろう。
そこにおいて私が新しい自分を発見するのか、それともそれが自分の道でないと気づくのか、それはさて分からない。

まあそのうちに、きっと遠くない先に出逢うだろう。
自分が何を心地いいと感じるか。自分が何を手ごたえと感じるか。



es[エス] Das Experiment(2001年・独)
監督:オリバー・ヒルツェビゲル
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、クリスチャン・ベルケル、オリバー・ストコフスキー他
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by yukotto1 | 2005-07-03 03:28 | 怖い映画