生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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旅をした証-モーターサイクル・ダイアリーズ-

ふたりは、ポンコツのバイクで旅に出る。
最果てから最果てへ。
冒険心だけが全ての頼り。

キューバ革命の指導者チェ・ゲバラは23歳の医学生だったとき、まもなく30歳になる親友と、故郷アルゼンチンから南米を北上する、長い長い旅をした。
若さならではの行き当たりばったりの旅で、何か明確な目的があったわけじゃない。



ただ、心が騒いで、見たことのないものを見たかった、行ったことのない場所に立ってみたかった。
ただもう、そういうひたすらなシンプルさが眩しい。

旅の始まりに描いたものは、たいてい意味をなさない。
なぜならそれを裏切るのが、旅の本質だから。

冒険心だけを携えて、向こう見ずに飛び出した荒野が、やがて翔び立つ空を教えてくれる。
あるときは茜色。あるときはセルリアンブルー。

訪れる場所で、立ち寄る場所で、去る場所で、別れ告げる場所で。
そこには人の笑顔、泪、それから言葉にできない、口惜しさ。

新しい場所に行くと、あるいは新しく人と知り合うと、自ずと別れのときをイメージする。
そんな癖がつく。

安住の地などない。
けれど、いずれ母の懐に抱かれていることに変わりはない。

素晴らしいものに出逢うと、たまらなく切なくなる。
それを生み出した世界に感動をおぼえながら、必ずその心地よい触れ合いには限りがあることを思って。

大好きなものを増やして、大好きなものにサヨナラをする。
心構えができていく。

偉人にも、一度きりの人生に対して大志を抱き歩み出す瞬間があるなら、それは一体どんなときだろう。
自信のなさや戸惑いや、やっかみや無邪気さが行く手を阻み、裾を踏むことがあったろうか。

何かを成し遂げる途中で、彼が障害をいかに乗り越えていったかについては、幾度となく語られることがある。
襲いかかる逆境をいかに跳ねのけたか、瞬間的なチャンスをいかにしてつかんだか。

けれど、その壮大な物語にもプロローグがある。
想いを秘めながら、純粋で傷つきやすい若者の物語がある。

たった39歳で没したゲバラの顔。
あの精悍かつ滲み出る意志と色気が出るまでに、彼はどんな道を歩んだか。
どんなふうに、青年エルネストがチェ・ゲバラとなっていったか。

何かを成し遂げられるような人というのは、勇気や強さと同時に繊細さも抱えているものなのかもしれない。
人より感度のよいアンテナで、他人の痛みを知り、微細な空気の流れを読み、自分が何をすべきなのかを知るようになる。
「考える」より「感じとる」ような手段で、その啓示のような使命を与えられるのだ。
それは思いつきなんかじゃなく、ある意味では伴侶のような存在なので、決して簡単にくじけない。

その理想やマインドのわりに、経験がおぼつかない。だから心がはやる。
まるで舌ったらずな感じがする。
なんだか。

経験はいくらでも積める。
旅にさえ出ればいい。

それでもなお、饒舌さより、ずっと雄弁。

最近観た映画の中でも特に気に入った作品で、静かに胸が動いた。
白昼に揺れる蝋燭の灯のごとく、視覚ではとらえきれないけれど、近づくと熱が伝わるような感じに。

ある方のお誕生日に、このDVDをプレゼントした。
人あたりが穏やかで優しくとても落ち着いた雰囲気のその人は、それでもどこか少年のような舌っ足らずさを秘めている。
そして彼も、日程表のない旅を始めたばかり。

初めてお会いしたとき、なぜだか「この人は10年後、どんな顔をしているんだろう」と思った。
荒野に差す光と影、雷雨と熱射が、全て祝福の下に旅を彩ることだろう。

日焼けをしたり、しわを刻んだり、髭に白髪が混じるのも、それは旅をした人の証。
寄り道でも、転倒でも、ガス欠でもなんでも、土埃、スコール、ぬかるみに吹雪、それがその人の顔を作る。


モーターサイクル・ダイアリーズ The Motorcycle Diaries(2003年・英/米)
監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、ミア・マエストロ他
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by yukotto1 | 2005-08-04 03:48 | ぐっとくる映画