生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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セルの中の出来事-裏窓-

私がちょうど今勤めているオフィスは高層ビル群の一角にあり、そしてまた眺めのよい高層階にある。
すぐ隣にも競うように、まっすぐに空に向けて伸びたガラス張りのビル。
窓際に寄って外を眺めると、ほんの数十メートルの先に同じように人が働いているのが見える。

さすがに顔までは分からないけれど、その動作や服装は見てとれる。
会議室なのだろうか、いくつもの小部屋があって、そのセル一つ一つでそれぞれのドラマが繰り広げられているのだ。



もちろん部屋の中にいる人々は、隣の部屋のことを知らない。
もしも隣室で、壁に耳を当てて彼らの話を盗み聞きしている人がいるとしていても、こっそり男女がいちゃついていても、あるいは殺人事件が起きていてさえ、知る由もない。

けれど、私の位置からはそれが見える。
同時に動く、別々の部屋の出来事。

それって何かに似ているなと思ったら、ヒッチコックの「裏窓」だった。

脚を骨折して部屋のベッドで寝たきりの報道カメラマンが、裏窓から隣のアパートの様子を望遠鏡で覗いている。
それぞれの部屋には、孤独な若い女性や仲睦まじい新婚夫婦や、才能に詰まった作曲家や、様々個性的な面々が暮らしていて、彼らの声は届かないものの、想像力を働かせるに十分な日常が動いていた。
そして、あるとき、事件が起きる。

ヒッチコックのミステリーは本当に素晴らしい。

素晴らしいというかもう、観るだけで嬉しくなってしまう。
こんなに面白くて、こんなに挑戦的な作品がこの世にあることに、驚いてまた感謝するのだ。

当たり前のことなのに考えるほど不思議なのは、私以外の人間にも、各々に人生があるということ。
独善的に主観を突き詰めれば、私から見える限りにおいてだけ世界が存在していると言っても、それを完全に否定することはできない。
それはすなわち「我思う 故に 我あり」で、あらゆるものの端緒、最後の真実は自分の思考そのものに行き着く、そんなことを堂々巡りに考えてみたりする。

セルの中の出来事。
私から見ればそう。

そしてまた、おそらくかのセルの人から見れば、私の人生もセルの中の出来事なのだろう。


裏窓 Rear Window(1954年・米)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェームズ・スチュアート、グレイス・ケリー、ウェンデル・コーリー他
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by yukotto1 | 2005-10-17 00:59 | ぐっとくる映画