生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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秋と芋煮と夕雲と-半落ち-

小雨の降る中、友人が主催した芋煮会に行く。
和泉多摩川の河原にて。

春にお花見をした面々が多く、慣れ親しんだ顔にほっとする。
同時に、彼らに会うと、いつもかなり刺激を受ける。
今回も少し話しただけで、「今こんなことをしようとしている」という話題がいくつも飛び出して面白い。
本当にアクティブでバイタリティに溢れた仲間。



そして、芋煮。

この季節、河原で鍋をするのが南東北の慣わしらしい。
主催者のうち何人かが東北出身で、昨年も同じ場所で芋煮会が催された。
昨年は参加しなかったので、私にとっては初めてのイベント。

いたってシンプルに、さといもとこんにゃくと豚肉とにんじんと・・・といったトン汁に近い味噌仕立ての鍋は仙台風。
豚肉が牛肉になってしょうゆ仕立てになると山形風だそうで、それぞれの出身者がレシピにこだわりを見せる。
愛媛県には芋煮ならぬ芋炊きなる習わしがあると主張する人もいて、まだまだ知らない日本があるものだと妙に感心した。

夕刻の帰り道、久々に顔を合わせたN君と同じ電車に乗った。
N君は結婚4年目。奥さんのYちゃんも顔見知り。

「今日、Yちゃんは?」
「歯医者行ってる」

Yちゃんはここのところ審美歯科で矯正にチャレンジしているらしく、私も最近興味があるので「ほうほう」と耳をそばだてる。
N君曰く、矯正の効果たるやてき面で、Yちゃんの顎はほっそりとして見違えるほどになったらしい。

「へー」とうなづきながら、N君の「奥さんが(さらに)きれいになって嬉しい」と言わんばかりの口ぶりを微笑ましく思う。
この夫婦、通称上は別姓を使うくらい双方とも自立したふたりだけれど、本当に仲がいいのだ。

「ねえ、結婚生活ってどう?」と私がたずねると、N君はゆっくりうなづきながら「いいねえ」としみじみ漏らす。
その言いっぷりにあまりに心が入っていたので、「いいですかあ?」とオウム返ししてしまう。

「結婚はね、思っていた以上にいいよ」
「そうなんだ。何がそんなにいいの?」
こんなに自信たっぷりな人に会うことは珍しいので、途端に興味津々。

「帰る時間を気にしなくていいとかっていう小さいこともあるけど、なにより、お互いの話をとことん聞いて話し合えるっていうのがいい。それは恋人どうしのときとはちょっと違う感じなんだよね。結婚してから、もっと相手のことを理解したいっていう気持ちが強くなったし、思いやりも持つようになった」

うんうんとうなづく。
きっと、ふたりの人生が自ずと一体のものだからなんじゃないかと想像してみたりする。

「僕らはふたりともキャリア志向が強いんだけど、お互い仕事や人生をどうしていきたいかっていうことについて話し合うとき、自分の願望を押しつけるんじゃなくて、まずは相手の話を聞こうって思えるんだよね。それはね、すごくいい」

それは結婚したことの良さ、という側面もあり、同時に彼らが素晴らしい関係を紡いでいくに当たっての心得のようでもある。
小田急線のホームに立ったN君は、滑り込んでくる電車に目をやりながら、満足した調子で言い切った。

そんなふうに言える人は案外少ないよね、と言うと、ほんとだよね、僕からしたら信じられないけどね、とN君は微笑む。
それはすなわち、Yちゃんが素敵な奥さんだってことなんだろう。

「週末は基本的に一緒に過ごすの?」
最近、私はこのテーマについて、ことある度いろんなカップルに訊いている。

「一日は自分の時間。もう一日は一緒に過ごすって決めてる」

こういったきちんとしたルールの下にあってそれを実行できるカップルは、これまでの私のリサーチ結果では意外と珍しい。
まして結婚しているふたりとなると、きわめて珍しい。

N君が言うには、彼らは互いの交友関係に対してもあくまで干渉しないというスタンスなのだそうだ。
彼も、彼女も、異性とデートするんだそう。

「僕らの周りには魅力的な異性が多いからね。
だから、そういう人たちと知り合わないのはもったいないし、デートもすればいいと思うんだよ。
僕もするし、彼女もするし。
でも、どんな魅力的な人に会っても、やっぱり奥さんが一番いい女だと思ってる。
奥さんにとっても、僕が一番いい男だと思ってるしね」

ここまで言い切れるのって、なんだろう、すごい。
私はちょっと感動してしまった。

昨年のGW、ちょっとしたノリで誘いに応じ、ガラにもなくキャンプという催しに参加した。
虫が出るのでは?とか、お風呂に入れないとか、そういうナンパな不安があったのだけれど、これが案外面白くて、みんなでわいわいと作る豪快なアウトドア料理とか、ランプやろうそくの灯で話し込む夜更けとか、なんだかとても新鮮で楽しかった。

そのメンバーの中に、一組の新婚さんがいた。
私はそのとき初めてふたりに出逢ったのだけれど、これがなんとも仲の良いカップルで、見ているこちらも幸せになる、やわらかくて可愛らしい雰囲気を醸しだしていた。

その旦那様が、「号泣した」と強く主張していたのが映画「半落ち」。
痴呆症の妻を殺してしまった元刑事の夫。
容疑者の夫がかたくなに黙秘を続ける犯行後の空白の一日について、そこに隠された愛の姿について、さまざまな立場の登場人物の生き様を紐解きつつ問いかける、シリアスな作品だ。

いい映画だったけれど、私は泣けなかった。
号泣する気持ちは、想像の域を出なかった。

たぶん、まだ私には分からない。
でもきっと、それは素敵なものなのだと思う。

「もし奥さんにとって僕が一番でなくなったとしたら、それは僕の努力が足りないってことだと思う。魅力的な人が多いから、その人たちに負けないように努力しないと」

それがN君の、自信と、信頼と、決意と、それから深い深い愛情。

「幸せだね」
「ああ、幸せだね」

車窓の外に広がる、ミルクに濁った紅茶のような、やわらかい夕雲がそれに似ている気がした。


半落ち(2003年・日)
監督:佐々部清
出演:寺尾聡、原田美枝子、柴田恭兵 他
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by yukotto1 | 2005-10-25 22:11 | 考えてしまう映画