生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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懲りない癖-ディナーラッシュ-

NYを舞台にしたあるテレビドラマで、「ニューヨークで一番の権力者は人気レストランの予約係だ」というくだりがある。
それはおそらく、東京でも同じこと。

お誕生日祝いのディナーをどうしようと尋ねると、和食かイタリアンがいいという回答で、私はさっそくレストランを探し始めた。

ひとまず私は、最も信頼するグルメサイト「アスク・ユー・レストランガイド」で和食とイタリアンのランキングをチェックする。
それから、センスが良さそうなグルメ系ブログをひととおりチェックする。
さらには、自宅に山積みストックされた「東京カレンダー」と「danchu」のバックナンバーをめくる。

そして、結局、上記の情報を総合したとき、星の数ほどある東京のレストランの中で、舌におぼえがあるらしい人々のお気に入りは、ほんの一握りの店に集約されることが分かる。



そういった中から、私も以前から行ってみたかったお店のいくつかに電話を入れてみたが、「来週土曜に・・・」となると、なかなか予約がとれない。

星の数ほどある東京のレストラン。
それなのに人気のある店は集中する。

一方で閑古鳥が鳴くのに、他方では予約数週間待ち。
不思議なものだが、世の中そういうふうにできている。
インターネットが普及して、その傾向はより顕著になったのかもしれない。

特に行きたかった店が軒並みアウトだったので、どうしたものかと上司でありグルメのMさんに相談してみた。
「和食なら・・・」
単にMさんが鮑好きだからというのが一番の理由だが、今回薦められたのが「分とく山」。
有名な料理人が営む西麻布の店で、そこの名物が、鮑を肝のソースであえた「磯焼き」なのだそうだ。

「鮑がすっごいやわらかいんだよねー」
Mさんは、しみじみと言う。

イタリアンの人気店に連続3店振られてしまった後だったけれど、一気に気分を切り換えてMさんのお薦めに従ってみる。
またダメだったらと懸念しながら電話をすれば、20時からなら空いているとのこと。
「分とく山にしてみたんだけど」と伝えると、彼も以前から行ってみたかったということなので、じゃあよかった、ということで落ち着いた。

NYに実在するレストランをモデルにしたという映画「ディナーラッシュ」は、人気レストランに集まるスノッブな人々や評論家、野心家、強面などさもありなんな客とオーナー、シェフ、従業員たちの騒々しい一夜を描く。
店のあらゆるところで厄介事が発生し、そんな中でも、修羅場のような厨房の様相。

人々の注目が集まるレストランというのは、確かに、料理やサービスがどうというだけでなく、そこに集まる客や従業員たちのパワーみたいなものも少し特別な感じがする。
単純に食事をいただくというだけでなく、その場所に集うことそのものにイベント性を見出し、自分自身よりちょっと上等で、ちょっとセンスのある人たちに、つま先立ちで紛れてみるような感覚。
まあ、実際のところは、大してどうというほどのことはなくても、そういう「気分」を演出するのも、たまのことなら悪くない。

「分とく山」の内外装は本格的な和食店らしからず実にモダンで、週末だったせいか、客層は私たちよりひとまわりほど上の落ち着いたカップルが多かった気がする。
若い板前がカウンターを出て私たちの椅子の脇に立ち、「本日はようこそいらっしゃいました」と丁寧に頭を下げてからコースが始まるのが印象的だ。

首尾一貫して、和食の皿には季節が麗しく輝く。
夏らしい涼やかな見目や喉越しの料理。
丁寧に選ばれて、丹念にしつらえられた品々をいただくと、自然と会話が季節や素材の話題に至る。

帰り道、「おいしかったね」と言いながら、彼がこんな話をする。

「どんなおいしさも、大抵は過去に経験したものに思える。
過去の経験の中で最高レベルにおいしいけれど、未知のものじゃない。
今までに出逢ったことのないほどの味には、もう出逢えないのかな」

大人になるのも、おいしいものを食べるのも、やがてそういうものかもしれない。
一つ年を重ねた彼の言い方はちょっと寂しそうだった。

今までに出逢ったことのないほどの味が、本当にもうないのか、やっぱりどこかにあるのか、それは分からないけれど、懲りずに何度でも期待を膨らませる。
仮にそれでがっかりしても、その癖は、いくら年を重ねても変わらない。
あるいは、それは変わらないでいたい。

予約のとれない東京のレストランの中でも、今、一番行ってみたいのは、麻布十番の、とあるイタリアン。
色んなところで噂を聞くし、ちょくちょくその前を通るのだが、今のところ改まって足を向ける機会がない。
今回も電話してみたが週末の予約は3ヶ月待ちだそうで、ここのディナーにありつこうと思ったら、こちらがレストランに合わせて行動せざるを得ない。
実際、この店の常連は帰りがけに次の予約を入れて帰るらしいから、店の都合がいつだって優先というわけだ。

3ヶ月先の予約を入れて、レストランの都合に合わせて自分のスケジュールを決めてまでして、90%裏切られることが明白な期待を大事にあたためる3ヶ月もまた、それはそれで楽しいかもしれない。

人気レストランの堪能の仕方は、なるほどそこから始まるようである。



ディナーラッシュ Dinner Rush(2001年・米)
監督:ボブ・ジラルディ
出演:ダニー・アイエロ、エドアルド・バレリーニ、ヴィヴィアン・ウー他
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by yukotto1 | 2006-08-09 00:20 | ノリノリの映画