生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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冷蔵庫が来る-キッチン-

冷蔵庫を買うことにした。
理由は、単純にキャパが足りなくなったから。

転職をして、自炊生活を始めた途端、自分んちの冷蔵庫がいかに小さすぎるかということに気づいた。
なんでこんなに物が入らないんだろう?という愚問を繰り返して、ようやく「そっか、冷蔵庫が小さいからだ」と行き当たる。
もう7年も前に買ったその冷蔵庫は、確かにひどく小さい。

当時私は社会人になり、寮生活を始めたばかりだった。
小さな小さなテレビとビデオデッキとCDラジカセ以外の電化製品は何一つ持たずに東京から引っ越して、3日でやっぱり冷蔵庫は必要だと気がついた。
いくら部屋にキッチンのない寮の部屋だと言っても、最低限の飲み物なんかを冷やす装置は生きていくのに不可欠だ。



それで、社会人になりたての日曜日、まだ車もなくって、歩くより他に交通手段もなくって、そのまちのロードサイドに佇む家電量販店へ出向いていって、そうして冷蔵庫を買った。
4畳半の部屋に置くためのものなので、当然ながら「一番ちっさいやつ」を選んだ。

今考えても、寮生活なんてぞっとする。
あんなところにいたら、人間が腐って干からびてしまう。
そんな暗黒時代に購入した代物を、ようやく手放すときが来た。

2週間前の日曜、表参道の美容院に行った帰り、渋谷のビックカメラに立ち寄る。
「冷蔵庫を買うから」という、脈絡のない理屈で彼を呼び出す。

ずらりと並んだ電化製品たちにシビれながら、これまで私が付き合ってきた「ちっさいやつ」たちを尻目に、「おっきいやつ」群を嬉々として物色する。
野菜室が別になった3段式、一番上が冷蔵庫で自動製氷機がついていること。
最低限希望するのはそれだけだが、正直言って、このハードルはごくごく低い。
たいていの「おっきいやつ」はこれらの条件を備えていて、その上で瞬間冷凍機能だとか、切替室だとか、保温室だとか、感動するような便利機能が満載なのだ。

けれど、ここで大きな疑惑が浮上した。

スペースが足りないかもしれない。。。

そうなのだ。1LDKの私の部屋のキッチンは、さほど広くない。
冷蔵庫や食器棚を置くためのくぼんだスペースは、あの「一番ちっさいやつ」が納まった現状でも、さして余裕があるような気がしない。
数々の最新鋭冷蔵庫たちを迎え入れるだけの場所が、もしかしたらないかもしれない。

「サイズ測って来たの?」と言われて、「測ってない・・・」とうなだれる私。
少し考えればあまりに基本的なことなのに、全くとんちんかんな私。

一通りチェックすると、「おっきいやつ」群の横幅は概ね60~70cmで、一番狭いもので54cmだった。
「ちっさいやつ」群はだいたい45cmくらいなので、今の冷蔵庫に少なくともプラス10cmの余裕がなければ入らない。

そうして自分のキッチンのサイズについてぐるぐると考えたわけだが、実際のところ、計測してみないことには分からない。
適当にジャッジして、こんな大きな買物をするわけにもいかない。
すっかりうなだれてしまったが、今晩測って明日必ず買いにいこうと心に決めた。

スケールを探し出して測ると、思ったとおり、私のキッチンが許す冷蔵庫の幅は60cmでほぼぎりぎりだった。
放熱スペースなどを考えると、54cmは妥当な線で、どれにしようと迷う余地もなく、あの日立製の冷蔵庫こそがここに納まるべき唯一の存在なのだと解明した。

幅が狭いから安いのかというとそうではない。
むしろ、スリムに仕上げることにコストがかかるのか、型式的に人気が薄いせいなのか、価格は割高だった。
同じ値段で製氷室が専用扉になった冷蔵庫もあったが、到底幅が追いつかなかった。
「選ぶ」という作業を完全にはしょって、私のキッチンは唯一無二のマッチングに甘んじたのだ。
それは運命みたく私を観念させて、悔しさの微塵もなく現実は受け容れられた。

そして一気に、「冷蔵庫が来る」という気分に満たされたのだ。

私は模様替えを決意した。
目下、「ちっさい」冷蔵庫の上にある電子レンジを隣のシェルフの2段目に移し、その2段目に陣取った雑品たちをどこかに移動する必要があった。
そのために流しの上の棚を空けんとし、そこにある食器を新しくチェストを買って収めた。
さらに、そのチェストを置くための場所を開放すべく、たまった雑誌を処分し、本棚の整理をスタートした。
ついでに玄関の靴箱を整理して、使い道のわからないものは思い切ってどんどん捨てた。

冷蔵庫が来る。
そのために万全の体制を整える。
まるで昭和の頃の三種の神器みたいなもてはやされようだが、あれが来ればあんなことこんなことと妄想が膨らんでいくのだから、やはり冷蔵庫には何か特別な存在感がある。

映画「キッチン」では、孤独な少女みかげは冷蔵庫の脇で眠るのが好きだ。
以前のブログでも冷蔵庫が欲しいと書いたが、家の中で24時間ずっと電源が入っていることに必然性があり、いつでもブーンと音を出して「命の気配」みたいなものを放ちつづける冷蔵庫というのは、きっと私の新しい相棒なのだ。

そう言われてみれば、あの7年物の「ちっさいやつ」は、長いこと昼も夜も休むことなくよくがんばってくれた。
新しい冷蔵庫は、いよいよ今週末やってくる。



キッチン(1989年・日)
監督:森田芳光
出演:川原亜矢子、松田ケイジ、橋爪功 他
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by yukotto1 | 2006-08-28 21:55 | ハッピーになる映画