生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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聖杯を満たす水-フィッシャー・キング-

熱いコーヒーを飲みたくなる季節が巡ってきた。
その日の天気予報は、10月中旬の気温だと告げていた。

通勤電車にはストールを巻いた女性が多かった。
私もちょうどでかけるとき、ジャケットを羽織るかストールを巻くかどうしようと考えて、雨が冷たそうだったからジャケットにした。

気温や天候に合わせて飲むものや着るものを変えるのは、当然と言えば当然だけれど、そこに人の息づかいというか、快適に暮らすための知恵というか、あるいは大人のたしなみといったものを、さりげなく感じる。
子どもの頃は、年じゅう半ズボンやミニスカートを履いたり、夏服と冬服の二種類しかない制服に袖を通す毎日なのだから、そういった感覚にはどうしても疎い。
そのかわり、子どもの頃は、今の何倍もの時間を屋外で過ごしたし、田園の稲穂が背丈や色を変えていく姿や、山の木々をざわめかせる風の音の高低や、そういったものを直にたっぷり感じていた。



ある友人は、ポリシーか口癖のように「人生の優先順位」という言葉を使う。
仕事や家庭や恋愛や遊び。
自分の人生に存在するもの、存在していて欲しいものに優先順位をつける。
そこには、全てを等しく求めることは難しいという前提がある。
映画やドラマや漫画のように、あらゆることを同時に最大化させることはまずできない。

けれどもそれは、All or Nothingと言っているわけでもない。
何かを得るために、他のこと全てをいっさいがっさい諦める必要などないのだから。
映画やドラマや漫画とは違って、現実はいつも、余地を認めるものなのだ。

優柔不断の風が吹く。

秋の雨は冷たい。

最近優しい映画を観た。
テリー・ギリアム監督の「フィッシャー・キング」は、数年前、某レビューサイトで評判を見てからずっと気になっていたのに、観る機会に恵まれていなかった作品。
近所のビデオ屋に在庫がないのか、それとも私が見つけられなかっただけなのか、長く出逢うこと叶わなかった。
最近「ぽすれん」を始めたのだが、おかげでこの「フィッシャー・キング」にようやく出逢えた。

かつてラジオの人気DJだったが、オンエア中の不用意な発言が発端になってリスナーが無差別殺人を起こし、それ以来、表舞台から隠れて暮らす男、ジャック。
転落した運命と罪の意識に悩まされ続ける、なげやりで怠惰な日々。
彼を支える恋人に対しても、見知らぬ他人に対しても、むやみにつっかかり他者を傷つけてなお、埋めきらぬ心を抱えている。

ジャックは、あるホームレスに出逢う。
陽気で心優しく無邪気だけれど、時に恐ろしい妄想に襲われるそのホームレスは、かつてジャックの発言がきっかけとなった事件で妻を失い、それ以来精神に異常をきたしてしまった元大学教授だった。
それを知ったジャックは、このホームレスを救うことによって自らの罪の意識を清算しようと、根拠のない贖罪に奔走することになる。

現実と妄想が重なって絡み合う、テリー・ギリアムお得意のテイスト。
エキセントリックな日常描写に、不器用で繊細な人々への限りない愛が溢れている。

作中語られるフィッシャー・キングの伝説とは、聖杯を求めて闘い傷ついた王の前に道化が通りかかり、王の喉を潤すため水を差し出すが、その水が入った杯こそが求め続けていた聖杯だったという寓話。
王は問う。
「お前はどうやって聖杯を見つけたのだ?」
道化は言う。
「私はただ、あなたに水を飲ませたかっただけだ」

あるときは人を苦しめ、あるときは癒しもする、目に見えぬ存在に裁かれる感覚。
幸福は自らの心の中にあるといっても、他者との関わりなくして決して得られない。

人がもつ温度や、そのかたちには、それだけで崇高な力がある。
その力に触れて、触れられるだけで、みなぎる勇気と満たされる安心。
誰かが誰かを助けるときは、同時に相手に助けられているのだ。

求められて初めて知る、自らの存在。
与えて初めて知る、幸福の正体。

私は確かに、その存在に助けられている。
そしてまた、その存在を助けているはずだという想いが、私の存在を支えている。


フィッシャー・キング The Fisher King(1991年・米)
監督:テリー・ギリアム
出演:ロビン・ウィリアムズ、ジェフ・ブリッジス、アマンダ・プラマー 他
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by yukotto1 | 2006-09-18 01:03 | ぐっとくる映画