生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

成功の鍵-プラダを着た悪魔-

いわゆるハリウッド的サクセスストーリーにおいて、成功の鍵となるのは大局的に見て以下の3つ。

1.(唐突なほどの)独創性
2.(傍若無人なほどの)度胸
3.(実に映画的な)幸運

これがすなわち大事な仕事を成功させるために必要な要素で、主人公は上記の3つを備えていなければならない。
そんなサクセスストーリーを見終わって、「あー面白かった」と一種の爽快感を感じながら同時に観客は思う。
「でも、現実はそんなにうまく行きっこない」
映画は夢物語だと再確認し、明日もまた仕事かと上司や取引先の顔を思い浮かべてため息をつく。

けれど、先日「プラダを着た悪魔」を見たときの私の感想は、少し違った。



アン・ハサウェイ演じる主人公アンディは、ジャーナリストを目指してニューヨークに出てくるが、なかなか就職口がない。
片っ端から応募したら、たまたま一流ファッション誌編集長のアシスタントとして採用されることになる。
その仕事は彼女の考える「ジャーナリズム」の世界とは程遠く、「チャラチャラ」していて「知性のかけらもなく」、頭脳明晰な自分にかかれば「お安い御用」、のはずだった。
彼女はそこで1年間だけ働いてハクと出版業界のコネを作り、後のキャリアの腰掛けにしようと考えている。

けれど、「頭脳明晰」なアンディの仕事は、ことごとくうまくいかない。
ちょっとした使いっぱしりも、電話の応対もまともにできないところから、彼女のキャリアは始まる。
こんなはずじゃないのに、全然うまくいかない。

「プラダを着た悪魔」とうそぶかれるファッション業界のカリスマが放つ無茶な命令に振り回されっぱなしだ。
決してヒステリックにならず、どんなときも淡々と表情一つ変えないミランダの"That's all"という終止符の前に、アンディは途方に暮れる。

やる気がないわけではない。
仕事をうまくこなし、上司に評価され、自分の有能さを証明したいと思っている。
私はこんなにがんばっている、それなのに評価してくれないなんて、あの「悪魔」が意地悪すぎるからだ。
自分は上司に嫌われているのだと、愚痴て嘆くアンディ。

けれど、そもそもファッションに興味がないどころか内心馬鹿にしている彼女は、自分自身をオシャレにする気もなく、その世界のことを本気で学ぶ気も持っていない。
チェックのプリーツスカートに丸いつま先と太ヒールの靴で歩き、かかってきた電話に「ガッパーナの綴りは?」と訊いてしまう有様でも、悪びれることもなく「大事なのは服装じゃなくて仕事の内容でしょ」と「私は私」を貫ぬいて、会社の中でも浮いている。

けれど、あるときを境に彼女は変化する。
そこからは目にも楽しい華麗な変身を遂げていくのだが、そこで彼女が気付いたこと、どんどんと身に付けていったものは、きわめて本質的なことのように思えた。
これまで見た多くのサクセスストーリーとは違い、彼女を導いたのは、独創性でも度胸でも幸運でもない。

ただただ、当り前のこと。でも、難しいこと。
相手の求めていることを理解し、先回りしてそれに応えること。

そのためには、その世界のルールを知り、相手を熟知し、尊敬しなければならない。

アシスタントという仕事は、単純で付加価値が少ない、少なくとも世間的にそう思われがちだ。
けれど、一流の秘書というのは、誰よりも人の心と先を読む力があって、あらゆる局面に心を配り、相手の期待を超えることができるものだし、実際、私はそういう秘書の方に出逢ったことがあるが、ビジネスの基本、あるいは大人としての基本において、あらゆる人が手本にしたい存在だと言える。

ミランダが自分の娘たちのために「まだ出版されていない」ハリー・ポッターの最新作を手に入れるよう要求したとき、いかにしてアンディがそれを手に入れたかという点は確かにハリウッド映画的であるけれども、それよりも重要だったことは、アンディがミランダに言われる前にその原稿をコピーして娘たちに手渡し終えていた、ということの方だと思う。

「あれをやっておいて」と言われたとき、「もうやっておきました」と返せる余裕。
これができると、内心ガッツポーズが出る。
上司や相手に振り回されることもなくなる。
そういうことの延長線上に、自らを飛躍させるチャンスが巡ってくる。

簡単なことのようで難しい。
それには、経験も勘も努力も必要だからだ。
そもそも私なんかは、仕事を成功させるためにそれがともかく大切なのだと、ここ2~3年でようやく分かりかけてきた。

アンディはやがて自らについて見つめ始める。
自分が本当に求めるものは何なのか、一生懸命になるうちに図らずも変化していく自分自身に戸惑いながら、キャリアと引き換えに失っていくものの存在にも気づく。

たとえ将来にどんな選択をしても、彼女が「悪魔」から教わったことはどんな世界にも通じていく成功の鍵。
資格をとるとか留学するとか、そういうことよりも、可能性を広げるために本当に役に立つのは、そういう経験に違いないと私は思う。

軽やかな"Suddenly I see"の曲に乗って、女たちが目ざめ、ファッショナブルな洋服に身を包み、ルージュを引き、ピンヒールを履き、恋人にキスをした後、通りでタクシーを拾うオープニングシーン。
働くことは、女にとっても一つの戦い。

せっかくやるなら、楽しくなければいけない。美しくなければいけない。

プラダを着た悪魔 The Devil Wears Prada(2006年・米)
監督:デヴィッド・フランケル
出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント
[PR]
by yukotto1 | 2006-12-26 18:33 | ハッピーになる映画