生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

継続する日常-武士の一分-

昨日、少々髪を短く切りすぎた。
私は髪を伸ばすのが苦手だ。

まとめ髪が似合うのにと言われたことに反発した覚えはない。
ただ、気分の移ろいのちょっとしたバランスで、「短くしちゃいますか?」に「そうしちゃってください」と口走ったというだけだ。
人の心などというのは、そのくらいの思いつきで物事の結果を引き起こす。
慎重さも大切だが、そればかりでは前に進めないこともある。

風がひどく強く、寒さを感じる一日だった。

美容院に行くのは午前中と決めている。
休みの日が有効に使えるからだ。
短くなった髪で歩く表参道の街並み、まもなく開く店の前にバーゲンセールを待つ行列ができている。
そこにまぎれる気分にはならない。



私は本屋を目指していた。
ここらへんで大きな本屋というと、国連の裏の青山ブックセンターくらいしか思いつかない。

さっき、ランチの誘いを電話でしたけれど、留守電だった。
昼までに折り返しがなければ、本を買って、カフェでひとりでゆっくりそれを読もう。

最近は、外出する日はほとんど必ず本屋に行く。
探している本があるのだが、なかなか置いていない。
1年位前まではよく平積みにされていた本なのに、いくら流行った本だったといっても、出版元が小さい会社だとこういうことが起こるのだな、と思う。
まあ、アマゾンで買ってしまえば済むことだが。

青山ブックセンターでも見つからなかった。
しかたなく、東野圭吾の「手紙」を買う。
何人かの知人が面白いと言っていたので、私も試してみることにした。

いわゆる流行作家の流行の本を、私はこれまであまり読んでこなかった。
ところが最近は少し挑戦しようという気になっている。
ちょっとした勉強のためだ。

せっかく青山ブックセンターに来たので、品揃えが豊富な写真集コーナーを物色する。
日常を切り取ったさりげない作品を探すと、結局、以前別の本屋でも買うか買うまいか迷った藤代冥砂のそれを買うことになる。
妻である、昔SEVENTEENのモデルだった田辺あゆみを撮った写真集「もう、家に帰ろう」。

それから、いろんな人のいろんな視点が知りたくて、100人が1枚ずつ撮った100枚の写真集、「Camera People」を買う。
表紙の少女は、透き通った視線を高く掲げている。

コートのポケットに入れた電話が震える。
「もしもし?」

ランチしようよ、で次の予定が決まる。

買い物をすませて麻布十番まで向かう。
たき下の焼魚定食。
相手はむつ。私は鰈。
店内は正月らしい少々上等な服を着たふうな人々であふれる。
幼い子どもが、幼い声をあげている。
小上がりの前で、ちっちゃなコートを脱ぐ手つきが一生懸命で愛らしい。

旅行の土産をもらう。
ミントチョコレートも捨てがたかったけれど、アイスワイン。
甘いお酒の記憶がイメージによぎる。
トロリとした舌触り。蜜のような香り。

コーヒーを飲もうかとタリーズの前で、カウンターに並ぶと知人に出くわす。
三者三様に、少しはにかむ。

あらあら、ひさしぶり。今年もよろしく。

狭いスペースの小さなテーブルで、ラテを啜る。
外は風がきつい。
そういえば、正月に両親と三宮のスターバックスに入ったが、ふたりともスタバが初めてだったようで、カップに開いた小さな口からコーヒーを飲むのに苦心していて、終いにはフタをとってしまった。

その後、三田の友人の家まで行くというので、そこまで一緒に歩くことにする。
二の橋から左折して、三井会館とオーストラリア大使館の前の坂を上る。
大使館の軒のあたりに、カンガルーのオブジェがある。

寒いね、寒いね。
何度も口をつく。
坂を上る、下る。

目的地に到着し、そこで別れる。
田町駅までの道、分かる?と心配される。
私が、ひどい方向音痴だと知っているから。

あの道をまっすぐ行って、左折して右折して・・・。
たぶん、分かるよ。
ほんとに?
うん、たぶん。いや、わかんない。

そうこう言っているうちに、近くのバス停にバスが来る。
あれに乗ればいいんだよ。
そうだ、そうだ。あれに乗ればいい。

私はそれに乗る。
田町駅まで走るバス。

当たり前だけど、バスは駅の前に着く。
私は電車に乗って帰る。

品川駅で乗り換えるとき、ふと思い立ち、改札を出る。
そのまま映画館まで歩き、何がやっているだろうとラインナップを眺める。
「硫黄島からの手紙」にしようと思ったら、一列目しか空いていないと言われ首が痛くなるのが嫌だったので、予告編が始まったばかりの「武士の一分」に変える。

山田洋次監督のキムタク主演映画。
残念ながら、がっかりした。

あまりにも、ベタ過ぎる展開。

つまりは流行作家の流行の本に落胆するのと、同じ具合だ。
泣けないわけではないけれど、その笑いや涙のメカニズムがあまりにも綺麗に読めすぎる。
それを安定感と呼ぶのなら、そのとおりだろう。

映画が終わって携帯の電源を入れると、不在着信が残っていた。
折り返すと、「ちゃんと着いた?」と言う。
いくら私が方向音痴でも、田町駅行きのバスに乗ったのだから、田町駅に着くのは当たり前なのに。

こういうとき、あの人はメールにしない。
いつだって電話。
その点で、気が合うと思う。

ちゃんと着いたよ。映画を観てたの。
今日会った友達はミントチョコが苦手なんだって。yukottoちゃんにあげればよかったよ。
ミントチョコ、食べたかったなあ。

日常は、そうやって続くのです。


武士の一分(2006年・日)
監督:山田洋次
出演:木村拓哉、壇れい、笹野高史 他
[PR]
by yukotto1 | 2007-01-08 14:29 | 泣ける映画