生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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海の見える街-魔女の宅急便-


掛川では大雨が降って、東海道新幹線が動かないとか何とか。
けれど、私の故郷は快晴だ。

美しくすがすがしい、青い空。
加古川駅から東へ、JR山陽本線の列車に乗った。



兵庫県の瀬戸内海沿岸には、平行して複数の列車が走る。
神戸駅(あるいは高速神戸駅)より西はJR山陽本線と山陽電車。
東はJR、阪神電車、阪急電車。
加古川は姫路と三ノ宮の中間にあって、日本の子午線が通る明石の西。

私は兵庫県の生まれだ。

しかし、先に挙げた、加古川、姫路、神戸、明石、いずれの街の生まれでもない。
私が生まれたのは、加古川と明石の少し北にあたる、東播地域の小さなまちだ。
このまちには、海がない。

海は大きな憧れだった。
幼い頃は須磨海岸へ海水浴に行くか、あるいは母親の実家の香川まで、岡山の宇野港から乗る宇高国道フェリー。
海と言えばそれくらい。
潮の香りも、波音も、海鳥の羽ばたく姿、遠い汽笛、どれも私にはおよそ日常ではない。

15才で私は、高砂市の私立高校に入学した。
高砂は加古川と姫路に挟まれた街で、JR山陽本線を加古川駅から西へ向かう。
家から学校まで1時間近くかかった。

加古川を経由して高校へ通う道程では、海は見えない。
海が見えるのは、土曜日などに学校の後、加古川で電車を降りずに三ノ宮まででかける、JR山陽本線明石以東の旅路だ。

明石駅を過ぎれば、ほどなく海が見えてくる。
ほぼ国道2号線と並行する線路。国道とJRの間には山陽電車のベージュ色の車体が見下ろせる。
瀬戸内の海は、たいてい穏やかだ。

はっと開けた深緑の海と、広く果てしない空。
その先に淡路島が見渡せ、垂水駅に近づけば、海岸線は悠然とした明石海峡大橋とぶつかる。
「はあ」とため息が漏れる。

振り返れば、なだらかな丘陵に家屋の屋根がぎっしりと連なる。
小高い場所から眺めたときの光景を脳裏によぎらせれば、それは心躍るイメージ。
急な坂の上、木洩れ日に反射する路上駐車の紺のワーゲン。
坂は海まで続いていく、人と車が信号待ちをしている。
遠くの方で、汽笛の音がぼうと鳴る。

将来は必ず、海の見える大きな街に住もう。
高校生の頃、この列車に乗るたび、心に決めた。

そして私は今、東京に住んでいる。

この季節にはよく、スタジオジブリの作品がテレビ放映される。
夏が盛りになっていく頃、決まって放映されるのだ。
その定番の一つが「魔女の宅急便」。

見習い魔女のキキが、一人前になるために、単身、家を離れて海の見える大きな街に越してくる。
彼女は自分で気に入った街を探し、大きな時計台と、坂と海のある、その街を選んだ。
私はこの映画を見ると、自分が欲しかったものを思い出す。

パン屋の裏に借りた部屋。
窓枠につく頬杖。

ちょっとした買い物をして、生活を成り立たせ、自分のために料理をし、自分のために靴を磨く。
そういうことの全て。新しい生活の全てが、一人立ちというキーワードの中で、くすぐったく、ドキドキとする。
憧れていた街の憧れていた暮らしが、少しずつ等身大にかたちになっていくときの胸の高鳴りを、この映画の挿入歌の一編、その名も「海の見える街」とともに思い出す。

JR山陽本線、新快速はまっすぐに東へ走る。



魔女の宅急便(1989年・日)
監督:宮崎駿
声の出演:高山みなみ 、佐久間レイ 、戸田恵子他
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by yukotto1 | 2004-07-01 00:56 | ハッピーになる映画