生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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五色沼トレッキング、夢と現-オー・ブラザー!-

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東北は数えるほどしか行ったことがない。
関西生まれの私にとっては、相当に遠いところだ。
イメージだけで言えば、北海道より北にあるような気さえする。
北海道がカナダなら、東北はスカンジナビア半島で、前者がリゾートであり開拓地なら、後者は神話の国であり原初の地。
なぜか神秘的な印象がある。



旅行3日目の朝は少し早く起きて、五色沼まで出かけた。
もう2年近く運転をしていないのに、うながされて運転席に座る。
30分ほど車を走らせれば、裏磐梯の尾根を縫って、青葉のくぐり戸を抜けていく。
ドアガラスを開け放って、心地のいい風を入れる。

そもそも、五色沼という場所があることを知らなかった。
昔、磐梯山が噴火した折の土石流・溶岩流によって作られた湖沼群だそうで、様々な成分が混ざった火山岩を湖底にたたえるせいか、水面が鮮やかな青や緑や、あるいは筆舌しがたい色合いに輝くのが特徴、と連れ合いの説明を聞く。

案内板には片道1時間ほどのトレッキングコースとあるが、冗談ばかりのおしゃべりと度々の道草で2時間ほどかかった。
後から来た新潟の小学生の遠足にも追い越される。
岩の上、水の際、明媚な場所を見つけては閑をとる、実に贅沢で豊かな時間。

逆方向から歩く人から「こんにちは」と声をかけられ、「こんにちは」と声を返す。
見知らぬ人と挨拶を交わすのも、こんな場所ならではで可笑しい。

トレッキングに来るような人は心がオープンである。
トレッキングに来ると心がオープンになる。

仮説は二つありうるが、自分に関して言えば、前者とは言い難い。
トレッキングに来ると心がオープンなふりをしてみるのも酔狂か、といったもの。
そんなときでなくては、無暗にココロを開くのも難しい。

「この薫る朝に開けよ。それいち、に、さん」
ラジオ体操の歌でも口ずさむ休暇気分。

そういえば、コーエン兄弟の半ミュージカル映画「オー・ブラザー!」に登場した、奇妙な「歌う宗教」の儀式が行われていたのもこんな樹林ときらめく湖の中だった。
脱獄囚3人組の主人公たちは、白い装束を着た何十人もの老若男女が声を合わせて「オー・ブラザー!」と歌いながら湖へ向かって歩む、文字通り神がかった宗教儀式に出くわす。
合唱は森に響き渡り、いかにも神聖な空気で包む。
信者たちは列をなして湖に体を浸し、神官らしき男に仰向けに頭を委ね、額をゆっくりと押されながら水にちゃぽんと沈む。
主人公のうち2人はそれを見てこらえ切れずに水に飛び込み、列に割り込んで自らの体を洗礼に投じては声を上げる。
「俺の罪は洗い流された!」

一人岸辺に残った伊達男ジョージ・クルーニーは、「そんなもので罪が洗い流されるわけがない!水に入ったら髪形が崩れるじゃないか!」とポマードでかためた髪を撫でつける。
英語ではそうもいかないだろうが、個人的には、神と髪の対比が面白い。

映画全般で言えば、「オデュッセイア」を原案にしたという宗教色と小気味よいユーモラスの対比、アメリカ南部の歪んだ風俗風刺と愛すべきカントリーミュージックの軽妙さの対比。
いずれもいかにも映画好きを喜ばせる。

確かに森には何か、超越したものが棲むような気配がある。
五色沼の湖面は、自然のものと思えない鮮明な色を放つ。

樹林のわき道に、現夢翁の墓へ続くと標識があったので、本道をそれて、けもの道を行ってみた。
この土地が噴火で焼けただれたとき、生涯をかけて植林をしたという翁の墓があるという。
現と夢を並べた名前が、想像力を刺激する。

道をまちがったかと不安になるくらい草むらを歩くと、途端に開けた場所に出た。
ロールプレイングゲームなら、隠れ宝箱がありそうな場所だ。
広めの踊り場のような円型の空間に、ツタの葉が敷き詰めれ、中央に大きな石碑が立っている。
石碑の背後は、これも味わい深い巨大な岩でふさがれて、道はそこで行き止まり。
頭上からは光が差し、鳥のさえずりと木摺れ以外に音もなし。

こんなところでひっそりと永遠の時間を過ごし、時折迷い込む、もの好きの旅人を迎えるとは、穏やかで優しい翁の顔が見えるようだ。
森の神秘に抱かれ満たされ、確かに現を夢心地にした。



オー・ブラザー! "O BROTHER,WHERE ART THOU?”(2000年・米)
監督:ジョエル・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー、ジョン・タトゥーロ、ホリー・ハンター他
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by yukotto1 | 2004-07-05 17:43 | 笑える映画