生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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理想的な一日-ボンボン-

床暖房に寝そべってレシピ本などめくっていたら、うとうとと夢の世界に迷い込んだ。
ふと気づくと、約束の15時までほんの10分前。
あわてて起きて支度して、15時ちょうどに家を出た。

神楽坂上の交差点。
道路をはさんだ場所から相手を見つけたのは、私の方が先だった。
友だちは、何か音楽を聴きながら待っていた。

彼に会うのはいつもちょっと照れる。
私にとって男性は、異性を感じる人か感じない人かで大きく二分され、その違いはあまりに歴然としている。
だから、いつでも自分の態度に迷うことなどないのに、彼だけはそういう分類軸の外側にあるようで、私の中で独特のポジションを占めている。
異性と接する感覚とそれを超えた感覚の狭間で、私は彼に対して、回路の分からない照れを感じる。

何かを理性で抑止するような、頭の後ろがちょっとしびれる緊張感は、むしろ心地いい。



最初に知り合ったのは学生の頃だけど、ふたりで会うようになったのは社会人になってからだ。
私たちが共有するものはそれほど多くなく、たぶんお互いに、分野と言えばいいのかフィールドと言えばいいのか、そういうものが交わらない、ちょっと違う世界に生きる人いう意識はあると思う。

でも、話が合う。
うまい具合に、言わんとすることが通じ合う。

その日も、居心地が良すぎるほどのカフェで、結論のない話題について語った。
互いの思索を持ち寄る、やわらかい時間。

人はあっという間に進化したね、という話をする。
たった50年くらいの間に、日本人の平均身長も平均寿命もものすごくのびた。

信長の時代は人生50年だったらしいけど、50年前の日本もそれとそう大差なくて、それなのに近頃は、下手したらその倍くらい生きる人も決して珍しくない。
平均寿命が80歳なら、まるまる私の年齢分くらい、人生が延びたということになる。

生物学的なものを突きつめれば、たとえば30年もあれば人の一生なんていうのは足りていて、15歳くらいで子どもを生んで、それを15歳まで育てたら、もう親の役割は無用になってしまう。
30歳までがワンターンだとしたら、それより後は余生に過ぎない。

時々そういう考えに至り、実に奇妙な気持ちになる。
つまり私は、もう、生物としては余生を生きているということになるからだ。
だとしたら、まだこの先、無事にいけば50年近く続くであろう人生は、一体なんだというのだろう。

現在60歳くらいの人は、その人が生まれた頃の計算ではもう一生を終えるはずのところまで生きたのに、いざその年になったら、実はまだ人生は20年ほど残っているわけで、得したような拍子抜けしたような気がするんではないだろうか。
そんな風に思ったりもする。

どうしてそんな話の展開になったのだったか、もう忘れたけれど、そういう話題を「なんなんだろうねえ」とおおげなさのところもなくゆるゆる語るのが、概ね私たちの空気感だ。

飯田橋には映画館があるよ、ということで、思いつきがてらギンレイホールまで坂を下る。
ここは、独特の視点でセレクトされた映画を二本立てで上映している。
さすがに二本連続では観ないけれど、そのうち一本のタイトルが「ボンボン」と言って、ポスターに間の抜けた表情のおじさんと犬の姿があったのを理由に、そのアルゼンチン映画を観ることにした。

失業中で奥さんとは別居、娘夫婦にも疎まれて、お金も家もないおじさんが、ちょっとした偶然で血統書つきの大きな白い犬と出逢う。
そこから、ツイてない人生に少しずつ幸運の光が射し始める。

主人公のおじさんの表情は終始自信なさげで、さも、いつか誰かに騙されるに違いないと予感させるのだが、登場人物たちは皆、怪しいけれどいい人ばかりで、結局、なんら大きな波乱はない。
かといってバラ色の展開というわけでもなく、ただ淡々と物語は進む。
おじさんの生活と心が、ほんの少しだけ希望をまとうようになる、肝心なのはそういう変化だけだ。
あとは、パタゴニアの青い青い空が気持ちよく背景に広がって、印象に残る。

後から知ったが、役者の大半が素人なのだそうで、それもうなづける、どこまでもナチュラルな映画。
映画館を出た後、友人と顔を見合わせて言葉はなしでえくぼを作る、そういう映画。

作品の中でトルコレストランが出てきたのでふと思い出し、その日の夕飯はトルコ料理を食べようよと提案する。
また坂を上り、毘沙門天の裏へ。

場の流れでベリーダンスを踊り、それがうまくなくて苦笑いをし、それから飯田橋駅まで友だちを見送って、改札の前で握手をして別れた。
ちょっと遠回りして寄り道をして、ゆっくりゆっくり歩いて帰った。

今日は理想的な一日、と反芻しながら。



ボンボン El Perro/BomBo'n(2004年・アルゼンチン)
監督:カルロス・ソリン
出演:フアン・ビジェガス、ワルテル・ドナード他
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by yukotto1 | 2007-11-21 11:18 | ハッピーになる映画