生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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息吹の約束-卒業-

今年は桜の開花が早いらしい。
折からの暖冬のせい。

卒業式に桜が咲くというのは錯覚で、桜が咲くのは通常、入学式の頃だ。
昨年より一週間ほど早い今年の桜でさえ、満開を迎えるのは4月の頭。

今年の桜が楽しみで、三寒四温の透明な空を見上げる。
どんな桜、どんな新しい季節。

硬い殻がほろほろとこぼれ、新しい何かが姿を現す。
それが、春という季節。
果たされる、息吹の約束。



「卒業」という有名な映画がある。
40年も昔の映画だ。
ダスティン・ホフマンが大学生の役をやっている。

結婚式を挙げようとしている花嫁に向って、教会の後ろから大声で叫ぶ青年の姿はあまりにも有名で、くたびれるほどパロディにされているから、きっと誰でも知っている。
そこだけ見れば、まるで純愛の代名詞のようだ。

けれど、実際には、それは純愛と呼べるような物語とは少し違う。
前途有望な青年が大学を卒業し、周囲の人々から祝福されるが、本人はどこか虚脱感をおぼえ、情熱もなく、人生の意義を見つけることができないでいる。
そんな彼が、親の知人である中年女性に誘惑され、その関係に溺れていくのだが、やがてその女性の娘に心を奪われるようになり、邪魔になった関係を清算しようとし始める。
不純で愚かな若者がそんな自分を唐突に捨てて、あたかも自分は生まれついての純粋な人間だとでも言うように、「清らかな愛」を妄信するのだ。

その様は、若気の至りとして映り、物語はただ、気だるさから独善へと色を変えたようにしか見えない。
確かに、どちらも若さが囚われがちな特権で、捉えようによっては羨望すべきものかもしれないが、少なくとも私には古い傷を刺すような痛みにさえ感じる。

花嫁の手をとって青年は教会を飛び出し、ふたりは並木道を走るバスに飛び乗る。
一生懸命に走って、ついに未来に踏み出したふたり。
けれど、その表情には戸惑いがよぎっているように見える。

向こう見ずに飛び出したけれど、それで、本当によかったのか。
それで、この先、どうしようというのか。

一体、何のために走ったのだろう。
自分を突き動かしたものの正体が見えず、急に不安に襲われてしまう。

クライマックスのその先を、想像しないでいられない。
おそらく誰もが、そんな「卒業」を経てきたから。

卒業式に桜が咲くというのは錯覚で、桜が咲くのは、もう少し先。

桜が見たい。
どこかへ行きたい。

桜が見たい。
今年も見たい。


卒業 The Graduate(1967年・米)
監督:マイク・ニコルズ
出演:ダスティン・ホフマン、アン・バンクロフト、キャサリン・ロス他
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by yukotto1 | 2007-03-13 11:26 | 考えてしまう映画