生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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一期一会-おまけつき新婚生活-

考えてみれば、これまではいつも、若くてこざっぱりした人ばかりだった。
一貫していたのは、皆、静かで穏やかだったこと。
私を守ってくれたこと。
けれどもそれでは飽き足らず、次第に欲張りになっていく私は、一層に包み込んでくれる寛大さを求めるようになった。

あらゆることが私にとっては初めてづくしで、春から夏、秋から冬への一年で、一緒に大人になっていった気がする、大阪の人。
私は慣れない料理をおぼえ、生活ごっこに夢中だった。
飽きるほどの夜更かしや長電話、ときめきもぬくもりも全部教わって、そして一年で私は旅立つことに決めた。



夢と不安を抱えて始まった東京暮らし、自分の若さをもてあますような日々だった。
最初の頃は、都会の中でほっと息をつける最小限のスペースさえあれば十分だったのに、やがて、どうしても足りないものに気づいてしまった。
梅の花の咲く庭で、卒業とともにサヨナラをした、思い出の人。

就職してからの数年は、落ち着きがなかった。
周囲の環境のせいもあったけれど、不本意に束の間の関係を何度か繰り返した。
きっと私は束縛されるのが嫌で、他に帰る場所があるわけでもないのに、無暗に否定を続けていたのだ。
誰にする言い訳かも分からないけれど、あの頃は、どうしようもなかった。
私は本当に無力で自らの足で立つこともままならず、それでも同時に理想を捨てることもできないでいた。

息苦しさを感じていた私に、新しい光を与えてくれたのは、お洒落なセンスの優しい人だった。
その腕の中で、私の心は安らかに落ち着き、明るい気持ちに満たされた。
何よりもあの人は、私が私自身で行動し、見つけ出し、選択をした初めての人で、これまでの誰よりも私の理想に近かった。
あの頃の私にとっては最良のパートナーで、とにかくそれが嬉しかった私は、友人にも何度となく紹介したし、あの人の小さな癖やちょっとした特徴を眺めては、いつもいつも幸福に包まれていたのだ。
できるなら、ずっと一緒にいたかった。
それなのに、別れを選んだのは私のせい。
後悔しているわけではないし、それは最初から分かっていた運命みたいなものだったから、今さらもうどうしようもない。
それでも、あの人が時折見せた、やわらかい陽だまりを今でも時々思い出す。

そして今、私のそばにいる人とは、実はこれまでで一番長い付き合いになる。
もう4回以上、四季を経た。
気に入っているのは、何よりもその明るさ。どんなときも、いっぱいいっぱいの太陽を私にくれる。
派手さや特別なことは何もないけれど、ただ素直でシンプルで、そういうところが私にちょうど合っていると思う。
夏、黙って夜風を感じる瞬間や、冬、ベッドの中でまるくなる休日が、ささやかに嬉しい。
この人にだけは欲張るところなんてないと感じる。
ちょうどよい身の丈で、ちょうどよい収まり具合。
それで十分いいんだと、私を安心させてくれる。
細かいことを言い出せば、不都合だってないわけじゃないだろうけれど、その前に自分を問い直して、何かこっちに努力や工夫はないものかと、そういう向上心を引き起こさせてくれるのも、彼が私にとって特別な存在だからだろう。

だのに。
それなのに、私は。

週末、思いがけず、心を奪われてしまった。

その人にしたって、完璧なわけじゃない。
今までの人たちに比べれば少し年齢が上で、見た目は問題なく若いとは言え、実は多少の無理があるかもしれない。
ただ、彼には多くの人を惹きつけてやまない、大きな魅力がある。
彼は全てをもっていて、手を伸ばしさえすれば何にでも届く立場にいるのだ。
けれど、いやらしさも飾りけも気負いもなく、どこか親しみを感じさせる屈託なさが愛らしくもある。
多くのことを経験してきたせいか、何にも負けそうにないタフさが眩しい。
流行りのセンスはないけれど、さりげなく丁寧な佇まいに品の良さと優しさ、頼りがいさえ感じるのだ。

ただ、予感がする。
あの人とともになら、私はきっと、これまでにない毎日を経験するだろう。

その予感が、突如として私を悩ませ始めた。

新たな出逢いに踏み出すのは、いつでも勇気がいる。
しかも、彼と私は、少なくとも現時点では釣り合いがとれそうもなく、私はかなり無理をしなければならない。
強い魅力に惹かれながらも、私は大きく躊躇している。

そして何より、今この瞬間も傍らにいる、馴染んだこの人との関係に匹敵する安らぎを、本当に彼から得ることができるのか。

そんな身勝手な苦悶を抱きつつ、私は手元の紙に視線を落とす。
決断は、そう遠くないうちに下ろさなければならない。

・・・と、あまりに赤裸々な告白で戸惑わせてしまったかもしれないが、これ、実は賃貸物件の話。

部屋との出逢いは、人との一期一会によく似ていて、過去の引越しを紐解けば、それなりの歴史が語れてしまう。

正直言えば、私は今の部屋を気に入っていて、引越ししないで済むのなら、まだしばらくこのままでよいかなと思っている。
けれど、最近ちょっとした事情があって、引越しを考えざるを得なくなった。
それでもタイミングを失って熱が冷めてしまえば、その「引越しせざるを得ない事情」さえ、まあいいかとなる可能性もある。
そんなところも、人との出逢いや別れのタイミングと似ていて、ちょっとした感情の浮き沈みやすれ違いみたいなものが状況をどうとでも動かしてしまうのが、世の中の実際だ。

先のことは分からないし、今現在でさえ、ちょっとした偶然の通過地点に過ぎない。

「おまけつき新婚生活」という映画では、若い夫婦がニューヨーク郊外に家を買うことになり、その物件のお買い得さにご満悦だったが、実は上階に気難しい老女が住んでいた。
その老女にことあるごとに生活を邪魔され、ストレスを募らせながら対抗策を練る若夫婦。
時にブラックなコメディだが、家を買うことは物件そのもの以上に、そこで繰り広げられる生活、毎日、人生そのものを買うのだと、当たり前ながら気づかされる話でもある。

新しい部屋には新しい生活。
その切り替わりをこれまでの私はいつも楽しんできた。

今度もそうかもしれないが、どこか少し、今住んでいるこの部屋にだけは未練を感じる。
何か特別かといえばそうではないが、広さも設備も家賃もすべて、なぜだか身の丈に合った感じをおぼえるのだ。

新しい部屋に心を奪われていることよりも、現在の部屋に後ろ髪を引かれていることの方が、むしろ私には意外だ。


おまけつき新婚生活 DUPLEX(2003年・米)
監督:ダニー・デヴィート
出演:ベン・スティラー 、ドリュー・バリモア 、アイリーン・エッセル他
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by yukotto1 | 2007-07-03 11:45 | 笑える映画