生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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沢と煙-激流-

柄にもなくアウトドアづいた勢いに乗り、誘われるがまま、「ラフティング&カヤック合宿」なるものに参加した。
埼玉県の長瀞という土地まで赴く。
数ヶ月前、TOKIOの「鉄腕DASH」で長瀞の渓流下りにチャレンジする企画が放送されていて、「ながとろ」という地名だけは覚えていた。

まったくの素人であるTOKIOメンバーが一般の客を乗せて船頭をやれるくらいなので、大して難しいこともないだろうと高をくくる。
私が体験するのは、屋根付きの小舟に乗った渓流下りではなく、ゴムボートによる「ラフティング」なんだけれども。

今回は、なにせ「合宿」なので、15人程が4台の車に分かれて目的地を目指す。
沢のそばのコテージを貸し切って泊りがけでアウトドアするのだ。
初日はラフティング、翌日にはカヤック、夜はみんなでBBQと、なんと贅沢なフルコース。



吉祥寺駅に朝7時集合というタイムテーブルが、そもそも日常を逸している。
それだけでヘコたれそうになったが、がんばって起きて支度。
予想を裏切って今年4回目の活躍となる水着と、ドライ素材のTシャツ、お泊りグッズを鞄につめて。

神楽坂から吉祥寺は、意外に遠くない。
中野駅で東西線を中央線に乗り換え、「柄でもない」とまた自嘲する土曜日の朝。

カヤックは沖縄で経験したことがあるが、ラフティングは初めてだった。
学生時代に観た、メリル・ストリープとケビン・ベーコン競演の「激流」という映画を思い出す。

休暇にラフティングを楽しむことにした親子が、同じく川を下る男と親しくなる。
仕事中心で家族を顧みない父に嫌気を感じている息子と、冷め切った夫婦の関係。
息子は、父よりもむしろ隣のボートの男になつこうとする。

当初は和やかな渓流下り。
やがて、川に落ちて溺れかけた男を自分たちのボートに引き上げたところから、 流れは狂いだし、家族は激流に飲まれていく。
男は、凶悪な犯罪者だったのだ。

川の流れという、決して人の手に負えない大自然の中で、 なすがままの運命。
「激流」は、岩に乗り上げるたび、飛沫が襲いかかるたび、手に汗握り息を呑むアクション・アドベンチャー作品だ。

私たちはと言えば、ウェットスーツにライフジャケット、ヘルメットをかぶって完全防備。
8人乗りのボートを2艘、河原から引っ張って、小雨の降る荒川上流に浮かべた。
9月も終わろうとしている時節の、川の水はひんやり冷たい。

「いち、に、いち、に」という掛け声のリズムでオールを漕ぐ。
瀬は概ね穏やかで、時折速くなり、岩にぶつかり上下にうねる。
山の緑に守られながら、はしゃいだ歓声が谷に響く。
隣のボートと接近すれば、互いに水をかけあったりなどして、ただ長閑な長瀞の沢。
およそ5kmを下り、何人かはその間に故意に過失に水に落ちてびしょぬれになり、岸に上がって冷えた身体を震わせた。

ワゴンに乗って宿まで戻ると、表に焚き火が起こしてある。
見るなりすかさず近づいて、その懐かしい温かさに手をかざすと、小刻みに震えていた手足から、ほぐされるように力が抜ける。
さらに嬉しいことには、ザルに山盛りの茹で栗が供されて、さっそく手を伸ばし硬い皮と格闘を始めた。

これも懐かしい、塩味だ。
昔、実家ではよく食べたけれど、最近はすっかり縁がなかった。
空腹だったのも手伝ったのか、食べ始めると止まらなくなり、黙々と皮をむき、もろくて甘くてかすかにしょっぱい秋色の実を頬張る。
時計を見ると、まだ正午を少し過ぎたくらいだということに驚いて、三文の得をした早起きを今さら良かったと噛みしめた。

秩父の夜は訪れが早く、そして更けゆくまで長かった。
午後6時を過ぎる頃には陽も完全に落ちて、底の見えない夜闇が辺りを包む。
わずかなランプの灯りを除けば、肉を焼く炭をいこした赤が鈍く光るばかり。

冷え込んできた空気の中で火を囲み暖をとりつつ、なんどきも止むことのない沢の音に耳を澄ます。
姿の見えない自然の懐で、満腹になった身と心。
いつになく忙しかった9月の終わりに、それを押して今日はここに来て良かった。

翌朝は雨の勢いが強く、肌寒さもひとしおだったけれど、せっかくなのでカヤックにも挑戦。
たぶん、私はラフティングよりこっちの方が向いている気がする。
川の流れを読んで自由に舵をとる感覚や、しばし動きをとめて、木と水の気配をひとりで受けとめる感覚。
はしゃいだ声をあげることはないけれど、健やかな風を頬に感じる余裕もある。

何かに委ねるだけよりも、自分で漕いでいきたいのだ。
時には逆行したり、一休みもしたい。

吉祥寺まで送ってもらい、そこから帰宅してソファにもたれ、ふと気づいた。
炭の香りがする。

炭の煙に燻されて、服に香りがついた。

もう少し消えないで、もう少し嗅いでいたい。
それは、かすかな、香ばしい香りだった。


激流 The River Wild(1994年・米)
監督:カーティス・ハンソン
出演:メリル・ストリープ、ケビン・ベーコン、デイヴィッド・ストラザーン他
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by yukotto1 | 2007-10-10 23:57 | 迫力系映画