生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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太陽と光合成-深呼吸の必要-

クリスピークリームドーナツの行列に並ぶなんて、自分ひとりでだったら、絶対にありえない。
ドーナツが嫌いなわけでもないが、特別好きなわけでもないし、それを買うために長蛇の列だなんて。

だけど、大好きな友人と2年ぶりに会えることになり、彼女がクリスピークリームドーナツを食べたいと言ったら、私は喜んでそれに並ぶ。
混雑を避けるため、雨が降る日曜の朝9時に有楽町というスケジュールもへっちゃら。
(もともと休みの日の早起きは好きなんだけど)

2年前、彼女は、電撃的に結婚して、電撃的に会社を辞めて、電撃的にベルギーへ引っ越した。
すべてが電撃的で、驚いている暇もなかった。
なにもかもすべてを変えてしまう決断を鮮やかにやってのけ、どんなときも変わることのない阿弥陀様のような笑顔で手を振り、そして旅立った。



あれから、2年。
彼女はご主人と一緒に帰国し、今は名古屋に暮らしている。

金曜日に久しぶりにメールが来て、日曜日東京に行くから、お茶でもというお誘いが嬉しかった。
朝9時には東京駅に到着し、有楽町のクリスピークリームドーナツに行って、お昼は山の上ホテルで天ぷらを食べるという予定が示されていて、私は夕方から用事があったので、ドーナツを一緒に食べようということになった。

「ヨーロッパでは、あんまりこういうアメリカっぽいドーナツはないの」
と楽しそうな彼女は、旅立った時よりだいぶほっそりした感じがしたけれど、その微笑みは相変わらずの穏やかさだった。
隣に佇む優しい年下のご主人は、私の大学の後輩でもあって、彼が学生か新入社員のとき以来、更に久しぶりの再会だった。
ふたりが並ぶのを見たのはそれが初めてだったのだけれど、当時想像もしなかったこの組み合わせが、今となっては、なるほどという感じ。

朝早かったおかげで行列に並んだのは10分足らずだったけれど、その結果ゲットしたドーナツは、予想より遥かに甘かった。
いや、予想通りか。
歯が砂糖をじゃりと噛む。

私は「甘い・・・」とコメントし、友人は「オイリー・・・」とコメントした。

行列の魔力とはすごいと思う。
並ぶ人は次から次から途切れない。
でも、日本人の口に合うのは、ミスタードーナツだと思う。

その後は場所を移して、ひたすらおしゃべり。
3人とも以前は同じ会社に勤めていたということもあり、半分くらいは仕事や会社のこと。
それから、ヨーロッパでの生活について。

毎週末のようにヨーロッパの各方面に旅行に出かけたという話や、ブリュッセルはのんびりとした街だけれど、気軽に行けるコンサートがたくさんあって生活は文化的だという話。
友人は身体が弱くて病気がちだったけれど、仕事を辞めて生活のペースを落とし、日々健やかで幸せだという話。
でも、頑張り屋の性格は変わらずに、家事に力を入れる日々だとか。

私は、最近の楽しいこと、好きなことを話した。
下手くそだけどゴルフが面白くてしょうがないことや、落語を聴いて胸がすくほど笑えることや、富士山に登って、とんでもなくヘトヘトになったけど、なぜかまた上ってみたい気持ちになっていることや。

最近、毎日のように人に会って、どちらかというと自分の胸のうちを聞いてもらうことが多かった。
迷いや不安や焦り、そういうものを拾い上げてもらいながら、新たな視点やアドバイスを得るような機会が多かった。
自分でも少しバランスを失っている気がしていた私には、そういうプロセスが必要で、みんなにそれを助けてもらった。
そのおかげで、随分心が落ち着いてきて、余裕が少し出てきたように思う。

今日は、楽しい話だけをしよう。
色んな話を聞こう。

終始笑顔の友人を見ると、自然とやわらかい気持ちになる。

「yukottoちゃんは、やっぱり私の太陽だわ」

友人がそう言った日曜日は、どしゃぶりに近い雨模様だった。
私は言う。

「Sちゃんは、光合成をしてるからね」

Sちゃんは、太陽の光を浴びて、私に酸素をくれる。
私は無理なく呼吸ができる。

沖縄の離島で、サトウキビを刈る住み込みバイトの若者たちを描く、映画「深呼吸の必要」。
登場人物は皆、何かしらの事情と感情を抱えているようだけれど、それがなんなのかは、作品中、明確に語られることはない。

互いが抱えた気持ちが時折牙をむいたり、衝突したりもする。
けれど、強い陽射しの下で、南国の暑さの中で、ただ一心にサトウキビを刈り続けるうちに、次第に笑顔や思いやりが芽生えてくる。
それぞれの胸の中で、それぞれのやり方で。

自分ひとりに思えても、きっと誰かが誰かに何かを与えている。
誰かが誰かに何かをもらっている。

心は相互作用する。
やさしい気持ちがやさしい気持ちを導く。

誰かが吐いた息を、誰かが吸収する。
誰かが照らせば、誰かの後ろに影ができる。

晴れてきた。晴れてきた。
ほら、もう、東の空は明るい。

梅雨も、もうすぐ終わるだろう。


深呼吸の必要(2004年・日)
監督:篠原哲雄
出演:香里奈、谷原章介、成宮寛貴
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by yukotto1 | 2008-07-01 23:27 | ハッピーになる映画