生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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伝説かおとぎ噺-THIS IS IT-

11月のこと。
六本木ヒルズで00時35分開演の「THIS IS IT」を鑑賞した。

この映画のことは、きっと誰もが知っている。
今年6月に他界したマイケル・ジャクソンが、死の直前、もうまもなく初日というところまで準備を進めていたコンサート「THIS IS IT」のメイキングムービーだ。

別の二人の友人から、ほとんど同時に誘いを受けた。
「THIS IS IT」を観たいよね、と。

幸いその二人には面識もあるので、だったらいっそ三人で行こう。
忙しい私たちが揃うのは、金曜の深夜、仕事もデートも接待も終わった時間だねと、TOHOシネマのロビーで待ち合わせた。
チケットは、私が手配する。

眠らない街、東京は六本木。
金曜真夜中の映画館は、ものすごく賑わっていた。

この映画館の一番大きなスクリーンで、全ての席が観客で埋まって、時間の感覚を忘れそうな熱気が溢れている。
みんなでマイケル・ジャクソンの映画を観るというより、みんなでコンサートに行くような、そういう興奮が満ちていた。

シチュエーションが既に、ちょっと特別な感じがした。



作品は、映画というよりミュージッククリップとして楽しめた。
映画というのは、脚本があって、カメラワークがあって、台詞があって、 カット割があって成り立つわけだけど、 これはそういうものではなくて、やはりショーを観たという感覚に近い。

映画を観るときは、他の観客の存在を忘れるものだ。
忘れる方が正しいし、忘れる方が楽しい。
けれど、この作品では、他の観客の存在を意識しないでいられないし、意識する方が正しく、意識する方が楽しい気がする。

私は、それほどMJに詳しいわけではなかったので、ここで改めて、彼は確かに、歌も踊りもスペシャルにすごいのだと知った。
抜群にスタイルが良く、ずば抜けてかっこいい人なのだということも。
頭が小さく、手脚が長く、肩幅もある、均整のとれたプロポーションは、天性の身体能力とトレーニングの成果を、疑いようもなく証明している。

何に感動、あるいは共感するかというと、彼が作り上げるエンタテイメントの精度というか、高い高い理想というか、それにかける執念だとか情熱だとかこだわりだとか。

彼は「かっこいい」や「楽しい」ということを、どこの誰よりも知りぬいている。
しかも、それは普遍的で、時代や世代や言語や文化を超えて。

MJは、かっこいいをリードできる、かっこいい人。
観客のことを深く考えて、彼らが何を求めているか、何をしたら喜ぶかをよく知っている。

私は、アートに関わる人に時々訊くことがある。

アーティストに最も必要なものは、

・アイデアやひらめき、発想力
・それを具現化する再現力
・それを完成させる情熱

そのどれだと思うか、と。

発想がユニークでなければ、存在もユニークではない。
でも、それを人前で表現できる技術がなければ、誰にも伝わらない。
さらに、それを100%完成させる、作り上げる努力や熱意がなければ、どうしようもない。

あるとき、有名な家元の息子だという陶芸家の男性にそれを聞いたら、 彼は発想力だと答えたのだけど、 私は、そんなやつは偽物だと思った。

その人は、自分はデザインだけして、造形は弟子(?)にさせるのだそうだ。
「アイデアは天才にしか生み出せないが、技術は凡人にももてる」というような発言をして、本当に、安い少年漫画に出てくる偽物芸術家の言葉かと思った。
ジャンルは違うけれど、「美味しんぼ」に出てくるハリボテ美食家みたいな感じ。

本物の芸術家は、自分のアイデアを人任せになんかしないと、私は思う。
仮に、アイデアが天才と凡人を分ける最大の違いだとしても、 本当に才能がある人は、そんなことを言わない。

彼らは、もっとも難しいのは、自らのアイデアを本当の本当に100%形にすることだと知っている。
自らの理想の高さを知っているから、それを突き詰めていくことの難しさも知っている。

彼らが闘っているのは、どんなときでも、諦めてしまいそうな自らの心であって、求めても求めても完璧にならないもどかしさであって、気が狂いそうに溢れてくるイメージの世界であって、ずっとそれは生まれたがっていて、でも追いつかなくて、だから、本当に才能のある人は、彼らが日夜闘っているもののことを、もっとも大切と答えるはずだと私は思う。

それくらい、芸術は狂おしいものだと思う。
その狂気の姿にこそ、人は揺り動かされてしまうのだと思う。

MJには、素晴らしいアイデアやセンスがあり、それを再現する歌唱力やダンス技術や、身体能力があり、さらに、それを完成させる強い情熱があった。
だから、類稀なのであって、奇跡なのであって、そういう人のそういう才能に、みんながついていきたいと思ったのではないか。

MJのスタッフたちは、「答えはMJしか知らない」と何度も言っていて、ごくわずかな余韻や、ごく小さなステップや、そこに、うるさいほどこだわるMJに、まっすぐなリスペクトを注いでいること。
ただ彼の理想のために、全てを捧げられること。
MJの理想がかたちになった姿を、ただみんなが見たいから、それの助けになりたいから。

情熱という才能は、そんなふうに人を動かす力さえ持つのだと、私は思う。

映画を観終わって、もう1回観たいという気持ちになった。
というか、マイケルのコンサートに一度でも行ってみたかった。

その歌も、そのダンスも、ショーそのものの驚くべき演出も、心躍る、胸が震えるとはこういうことだという。

THIS IS IT.

全部答えは、ここにある。
そう言って、なんの齟齬もない。

彼が死んでしまったのは残念だ。
本当に残念。

でも、現代には、DVDやブルーレイというタイムマシンがあるから、いつでもMJに会いに行くことはできる。

2009年初夏のある日、伝説かおとぎ噺のように死んでしまった、伝説かおとぎ噺のようなスーパースターの、たくさんの伝説やおとぎ噺を、これから改めて紐解いてみたいと思う。


THIS IS IT(2009年・米)
監督:ケニー・オルテガ、マイケル・ジャクソン
出演:マイケル・ジャクソン、
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by yukotto1 | 2009-12-17 00:38 | ぐっとくる映画