生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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delicate-オリヲン座からの招待状-

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人と人には、それぞれ、ちょうどよい距離感や関係性がある。

燃え上がる熱情だけが運命ではなく、気づくとそばにいる自然な関係にも、すれ違いを繰り返す歯がゆい関係にも、視線で挨拶するだけのさりげない関係にも、固有の運命があると、私はそう思う。

慎重に探りあいながら、あるいは成り行きに任せるままに、収まりのよいスタンスを見つけ、それを維持していくことができるなら、二人の関係は長く続く。
けれど、どちらかが一方的にバランスを崩そうとすれば、途端に脆く崩れてしまうこともある。

「オリヲン座からの招待状」では、小さな映画館を営む夫婦と、住み込みで働く青年との交流が描かれるが、やがてオリヲン座の主人が病死し、未亡人となった妻と青年がふたりきりで同居するようになる。
二人は、主が欠けた劇場を守る同志として、同じ孤独を共有する家族のようなものとして、いたわりあいながら名もつかぬ関係を紡いでいく。
周囲の人は色眼鏡で二人を揶揄するけれど、互いにしか分からないものが確かにあって、時がやがて関係を本物にしていくのだ。



宮沢りえが演じる、若く美しく、はかない未亡人。
加瀬亮が演じる、一途で少し不器用で、心あたたかい青年。

佇まいさえ特別な映画俳優の二人が演じるのだからなおのこと、それでも、もしも映画なら、男女にはいずれ恋に落ちる筋書きがある。
でも、現実は、もっとデリケートなものだ。

「久しぶりに食事をしよう」と誘われて、それがもう一年ぶりだったと知った。
そんなふうに、思わなかった。

そして、テーブル越しに、彼が鞄から厚みのある封筒を取り出したとき、私は同じ光景を一年前にも見たことを思い出した。
中に入っているものが何か、知っている。

「TSUTAYAシネマハンドブック」だ。2010年度版の。
彼がそれを私にくれるのは、確か、5年連続だと思う。

私が「シネマハンドブック」が大好きだとこのブログに書いたときから、毎年、彼は私にそれをくれるようになった。
TSUTAYAで地道にポイントを貯めて交換するのだ。
非売品だから、そうしないと手に入らない。

勤め先の社名が印刷された角2封筒に入れて、それを私にくれる。
私は、彼が毎年「シネマハンドブック」をくれるということを、その瞬間まで忘れている。
そして、そこで思い出して、「あ」と言う。
封筒を受け取って、「ありがとうございます」と言う。

それを私に渡すために、年に一度、「久しぶりに食事をしよう」と誘ってくれるのだ。
この人は。

たぶん、一生そうしてくれるんじゃないだろうか。
そう決めているんじゃないだろうか。

そう思うほど、静かに微笑むのです。この人は。


オリヲン座からの招待状
(2007年・日)
監督:三枝健起
出演:宮沢りえ、加瀬亮、宇崎竜童 他
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by yukotto1 | 2010-02-12 00:17 | しっとりする映画