生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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イメージの中で-きょうのできごと a day on the planet-

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photo by hikaru

今このとき、生まれた人もいれば死んだ人もいて、笑う人もいれば泣く人もいる。
タクシーを拾った人もいれば地下鉄を降りた人もいて、雨が降り始めた街のずっと西の村では虹がかかる。
誰かが電話をかけて、誰かの電話が鳴る。
お風呂あがりの君と、洗濯物を干す私。
あるいは、まったく同じ瞬間に、くしゃみをした二人。あくびをした五人。

想像を巡らせると、同じ時間の同じ星の上で、数十億の人間が各々勝手に活動しているという当たり前の事実が全く奇妙に思えてくる。

現実は無限に複次的で、ただ、ごちゃごちゃとしている。
あらゆるところで絶え間なく、生まれて死んで、姿を変えて。

Twitterを始めたら、それが可視化される感覚を知った。
顕微鏡を覗いて、エンドレスな細胞分裂を観察するような感じだ。



ひとつひとつのつぶやきは、一人ひとりの生活中継で、その裏には、同時多発的物語が繰り広げられている。
自分が今ここに生きているということとそれらは、無関係なようで関係し、関係あるようで関係がない。
少なくとも一元的な自己意識の範囲を超えているので、その逐一は、どうでもいいことだ。

それなのに、TwitterのTime Lineには、本来関わりないはずの他者の人生が次々と列挙されてしまう。
まるでグロテスクで暴力的でさえある。
そのほとんどは、意識的に読み流す。あるいは、読み飛ばす。

Twitterを使いこなそうとすると、瞬時にして容赦ない取捨選択が必要だ。
がやがやとした海を泳ぎきる器用さは、選ぶことより捨てることに依存する。

この世界の実際の容量は、個人の容量に対して、とてつもなく大きい。
まるで手に負えない。

小さな私の小さな一日、命などはそれぽっきりだ。
けれど、そんなごく限られた視界の中で、些細なことに一喜一憂する、それが日常のすべてに他ならない。

そんなイメージの中で。

最近、「きょうのできごと」という映画を観た。

2003年3月のある晩、大学生たちが友人の引越し祝いに集まって、ただ酒を飲む。
男女7人の仲間内の飲み会で、少しおどけて少しけだるい、まったりとした空気感は、誰の青春にも経験があるだろう。

酒に酔ってからんだり、笑ったり、泣いたり、怒ったりする気の置けなさがいい。
子どもっぽい無邪気さを隠すこともない、学生らしい中途半端さやヘタレ感もいい。
何より、とろけるみたいに気の抜けた、酔っ払いの関西弁がいい。

くだらない冗談に笑い転げたり、空回りにかっこつけたり、ちょっとしたことを気に病んでめそめそしたり。
若者たちの個人的な感傷を、灯台の明かりのように照らしては逃げる。
ある出来事を、また別の人物の視点から描きなおしては逸らす。

夜の京都で自転車をこぐ。
鴨川の脇で勢いよく車にはねられる。
道路の真ん中に投げ出されて、大の字になる。

往来のない静かな道路。
散乱した荷物。
仰向けのまま、しばらく動かない青年。

突然、青年のポケットの中で携帯電話が鳴る。
夜に響く着信音。

寝転んだままポケットに手を入れ、ゆっくりと電話に応答する青年。
「もしもし」何事もなかったみたいに。

電話の先で、少し甘えた女の子の声。
レポートを書いているけれど滞って、気分転換の気まぐれにかけてきた電話だ。

青年は立ち上がり、自転車も荷物もほったらかしのまま、携帯で話しながら鴨川にかかる橋まで歩いていく。
欄干にもたれて、夜空を仰ぐ。
優しい声で彼女に、「京都に遊びにきいや」と誘う。

彼女は思わせぶりにしながらも、結局それをはぐらかす。
10分にも満たない電話が終わる。

電話の向こうの彼女は、青年がどんな状況で電話しているかなど知らない。
電話してきた人の声を聞くことはできても、電話に応答する直前までの相手の過ごし方については分からない。

隔たっているものと、つながっているもの。

他人の人生は他人のもの。
私の人生は私のもの。

今このとき、生まれた人もいれば死んだ人もいて、笑う人もいれば泣く人もいる。
タクシーを拾った人もいれば地下鉄を降りた人もいて、雨が降り始めた街のずっと西の村では虹がかかる。
誰かが電話をかけて、誰かの電話が鳴る。
お風呂あがりの君と、洗濯物を干す私。
あるいは、まったく同じ瞬間に、くしゃみをした二人。あくびをした五人。

ごく限られた視界の中だけど、些細なことに一喜一憂する、そんな日常をこれからも送りたい。



きょうのできごと
(2003年・日)
監督:行定勲
出演:妻夫木聡、田中麗奈、伊藤歩 他
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by yukotto1 | 2010-02-13 02:22 | ぐっとくる映画