生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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エンタテイメントについての考察-ドラゴンクエスト-

先週、池袋のサンシャイン60に向かって歩いているときだった。
耳に懐かしい、あの曲が聴こえた。

1970年代生まれにとっては、大作曲家以外の何者でもない、すぎやまこういち氏の作曲、ドラゴンクエストのテーマ。

ビッグカメラの店頭で流れるデモンストレーション。
わざわざ戻ってデモを見ようかと思ったくらいだけど、朝の雑踏を引き返すこともできず、そのまま通り過ぎた。
そうか、もうすぐドラクエの最新作が出るんだな。



条件反射的な胸の高鳴り。
心は、15年以上前にタイムスリップする。

私は小学校5年生だった。

幼なじみの亜紀ちゃんの家にはファミコンがあったけれど、うちの家にはファミコンがなかった。
親が頑なに買ってくれなかったからだ。

別の幼なじみ、えっちゃんの家にもファミコンがあって、えっちゃんの家で「スーパーマリオ」をやった。
1-1面はかろうじてクリアできるのだけれど、1-2面でいつもゲームオーバー。
私は反射神経が鈍かった。
というより、「死んだら交代ね」という無慈悲なルールと、セーブ機能のない当時のファミコンでは、練習量が絶対的に足りないばかりか、いつも一番最初からプレイするしかない(つまり同じステージばっかり繰り返してやるはめになる)さだめで、私は開始5分以内に常に他の子に交代を余儀なくされていた。
そしてもちろん、ファミコンの主えっちゃんは、日頃の練習の成果を、その後遺憾なく発揮してくれた。

私は、ただただ、えっちゃんの指がすべるのを待つばかり。
でも、えっちゃんはワープとか、隠しステージとか、ノコノコを階段の壁に何度もぶつける無限UPとか、裏技をいっぱい使って私にコントローラーを譲ってくれなかった。
最後にピーチ姫が"THANK YOU MARIO!"と言うまで。(文字で出るだけだけれど)

1983年に任天堂から発売されたファミリーコンピューター。
その最新鋭のおもちゃは、当時の小学生の心をわしづかみ、私たちの放課後を変えた。

そして、1986年、一本のソフトが私の人生さえ変えた。
その名は「ドラゴンクエスト」。

テレビCMさえ忘れられない。
「ドラゴンクエスト、ドラゴンクエスト・・・」と複数の子どもがめいっぱい低い声で呪文のように繰り返すナレーションと、暗い画像だった。
何かが近づいているんだな、という感覚があった。

ちょっと年上のお兄ちゃんがいた亜紀ちゃんの家で、私は初めてそのゲームを試した。
そのゲームにおいて、主人公はマリオではなく、私だった。
私はアレフガルドの街々を渡り、草原や祠、洞窟を冒険し、人と会話し、モンスターと戦った。
店屋で物を買い、宿屋で疲れを癒した。
老人の言葉に従って、あるときは野良犬についていき、その先に、宝物を見つけた。
船を手に入れれば、世界が丸いことを知った。

そこには、完成された世界があった。
2Dのドット絵とたった5チャンネルの音源で表現される、無限大の深さと広さ。
主人公は感情を吐露しない。けれど、この胸には感情が交差する。

物語があった。
完璧なまでの緻密さで、私を決して裏切らない物語。
矛盾と破綻のない、虚構の世界。
復活の呪文の複雑さは、この「もう一つの」世界に戻ってくるための、大切な魔法の呪文にふさわしかった。

ドラゴンクエストは、私にエンタテイメントの扉を開いた。
その感動を決して忘れることはないだろう。

私は、今でもエンタテイメントのとりこなのだ。
人の感情を揺さぶる虚構。
計算されつくした作り物のしわざで、人は笑いもし、泣きもする。
怒りをおぼえ、幸せにもなる。
自分が生きていることを、命のないものに教えられたりもする。

エンタテイメントとは、そういうものだ。私は思う。

もう一つの世界を作ること。
natureを知り抜き、そのsenceを裏切らないこと。
表現媒体の次元数を問わず、再現するものが三次元以上であること。
一抹の疑問も与えないこと。
没頭感があること。
完成されていること。

朝の池袋。
雑踏にもまれながら、私のクリエイティビティに受ける数年ぶりの強い刺激をぐっと噛みしめた。
どんなに長い時間を経ても、たった一節のメロディで、瞬間移動できてしまう。


交響組曲「ドラゴンクエストI・II」
作曲:すぎやまこういち
演奏:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
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by yukotto1 | 2004-10-21 23:08 | 音楽