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生活視点の映画紹介。日常のふとした瞬間思い出す映画の1シーンであったり、映画を観てよみがえる思い出だったり。生活と映画を近づけてみれば、どちらもより一層楽しいものになるような気がします。


by yukotto1
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春分点 水面の直線を独り占めしたい


夢は夜にしか見られないだろうか。

そんなことはない。
昼間にでも、もちろん夢を見続けることはできる。

でも、そこに後ろめたさはないだろうか。
いつまでも、こんなふうに眠っていてはいけないと。

もう動き出している人もいるというのに、自分はまだ、今日の予定も立っていなくて、なんとなく不安を感じたりはしないだろうか。



近頃は、空が白むのも早くなった。
そのせいか何度も朝方目が醒めるのだけれど、それでも大学は休みだし、まだまだ朝の空気は冷たいし、布団から出るのは億劫で、ついつい再び眠りについてしまう。

そして私が昼にみる夢。


  いろいろな遊びを発明して 競い合いに楽しい気持ちを探した
  若葉も時経れば 花を抱き実を結ぶ
  新緑があれほどに染み入る透明感をもっているのは
  先々に実を結ぶ 未来の自分を知ってか知らずか
  確信的に少女たちは 眩しい未来を知っていた
  そして今 それぞれは それぞれの花を咲かせようとしている
  懸命に 誇らかに             
                                         -若葉-


何が人生を支えているのか。支えていくのか。

心地好い陽射しの下の、橋架かる河辺の君。
希望ばかりを抱いていて、脆くてほろ苦く、熱っぽくてすがすがしい、そんな君が確かにそこに生きていた。

妥協していくのか。袋小路で立ち止まるのか。
私は何だか、何なのか。
何処へ行くのか、行かないのか。

私が変わり始めたのは、歓喜のときか、失墜のときか。
恋か、都会か、大学か。
酒か、夜遊び、長電話。

その一つ一つに影響されて変わっていって、だんだんに出来上がってった今の私は、君とは、どうなんだろう、同じ人間なんですか。

人は変わる。あらゆる物は変わる。
新陳代謝の押し寄せる波が、私を一刻前とは異なるものにし続けるなら、確固たるもの、その存在とは一体、何なのだろう。
それを支えているものは、何㌨だろう。

二十一歳の、私。

私には一体、何があるだろう。

確かに私には依然として可能性がある。
だけれど、それは赤ん坊と同じ。
無限大なそれではないだけ赤ん坊にも劣る。

自分は特別な人間なんだと一生懸命信じようとした。
昔は簡単に信じることができて、空想の世界にそれをそのまま持ち込んで、限りないはずの未来を思い描くこともできた。
次第にそれは難しくなって、未来も限りないものではないと分かってきた。
昨日は上出来だと思った詩も、今日はなんだか至極つまらなくて、やっぱり私の価値なんて思い込みにしか裏づけされないものなんだと。

私は閉口する。
知識も経験も中途半端な私は、何も口にする資格などない気がして。

自分の力を信じることは難しい。

夢なんて初めから叶うはずないのだから現実的でないと、言い遣ってしまえるなら、選んだその「現実的」な道がきっと目的地を教えてくれる。
そして、目的地に着くころには、お望み通り夢は夢でしかなかったことが証明されるだろう。

多くの人が昔はこんな夢をもっていたと語るように、私だけの特別な夢も、このままただ見続けるだけで終わるなら、うとうとと夢心地に酔い、若さに酔い、一握の可能性だけにすがって生きるなら、おそらく、どこにでもある平凡な、遠く遥かで美しいセイシュンになる。

セイシュン?
セイシュンはまだ終わってないはずじゃないのか。
それどころか、まだ何も始まっていないんじゃないか。
本当にもう、それは遥か遠くのものなんだろうか。
手が届かないほどに。

大体、私は手を伸ばしてみたことがあるだろうか。
一度だって。


  「あの実を採って」
  「どれを?」
  「あの赤いの」
  「どれどれ」
  「あそこのね 一番高いの」
  「あれかあ 空に一番 近いのね」
  どんどん遠くのものが欲しくなる
  どんどん美しいものが欲しくなる
  どんどん強いものや どんどん優しいもの
  とにかくどんどん欲張りになって 君はどんどん手を伸ばす
  一つ一つ手に入れて いつかもう届かないというところまで
  きっと至ってしまうだろう
  そのとき君は不思議に思うだろう
  一つ前までは手にできたものが その次にはもう自分のものではなくて
  思い通りにならないことを
  そして君は泣いてみたりもし いろんなものを壊してみたりもし
  誰かを傷つけたりもし
  でも 結局 どうにもならないと
  知って やっと だだっ子をやめる
  そうして君は大人と呼ばれ もう腕さえ伸ばさない
  そうすれば赤い実は永遠に 君のものではなく
  また他の誰かのものか それとも

  限りなく高い高い空の所有
                                        -空の所有-


抱き合えば、いいえ、抱き合っている間だけは、いろんなことを忘れられる。
それは本当。

あなたがもし死んだら、私はどうやってそれから逃れるだろう。
どうやってそれを忘れるだろう。

忘れる方法はたくさんある。
だけど、忘れられなんか、しない。

記憶はとても残酷で、平穏な生活を乱し揺るがし、自然の命に逆らって、朽ち果てるべきものこそ朽ち果てようとしない。
実体を失ったものばかりがのさばり、空気の中で翻る。

取り返しがつかないと諦めていることを、取り返さぬままにしておくときっと、それが本当に取り返しのつかないものになったときに、私を悩ませ、苦しめるだろう。
世界中に私の精神の自由を脅かす存在はいくらでもある。

何がどうなれば、心は幸福感で満たされるのか、見つけようとして懸命で、それが全てを見えない糸でコントロールしている意識体。

走れ、走れ、走るんだ。

指をくわえて見ているか。
開き直りを決めこむか。
それとも若さを妬むのか。
自分勝手にシオドキを決めたくせに。

やってみて出来なかったこと。
やろうとはしなかったこと。

そんなに時は甘くない。


  如何なる術も歯が立たない
  若さの一粒一粒が きらめきを失う前に
  僕は何かを言うべきなんだ きっと
  運命の糸が突然に切れて 落ちていくその暗黒を
  僕はどうしたって照らせはしない
  しなやかさの追憶は 鋼鉄の錆びた箱の中で 眠りについていくんだろう
  川を流れるように ただ身を任せてる
  木々が風に歌うように 無意識な輝き
  秋が来る前に 僕は何かを言うべきなんだ きっと
                                     -僕はきっと-


私は忘れていた。ずっと忘れていた。

春分点-それは、セイシュンの折り返し地点。
これからどんどん昼が長くなる。

まだ、折り返し地点じゃないか。


  うなだれる 紫の実よ
  涙を ひらに うけとめてあげよう
                                      -あざみ-


___

21歳の春分の日に書いた文章。
私は時々、読み返す。

実に青臭い文体だけれど、それでも私を懲らしめる。
それでも私を大きく包む。
by yukotto1 | 2005-03-21 18:10 |